モータの鳴らし方byHanDen

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電子工作

回路編第13回 ゲート抵抗の選び方

前回まではゲートドライバICの使い方の紹介をしてきましたが、今回はMOSFETのゲート部に取り付けるゲート抵抗の大きさの選び方のお話をしたいと思います。

 

 一般的にはMOSFETのゲート抵抗は数Ωから数百Ω程度と割と広い範囲で言われています。もちろん、この範囲の広さには理由があって、回路の用途や仕様などで取り付けるゲート抵抗が大きく変わるからです。

 通常ゲート抵抗が大きくなると、半導体のスイッチング速度が遅くなり、ゲート抵抗を小さくするとスイッチング速度は速くなります。このスイッチング速度がゲート抵抗を決める大きなカギとなります。まずは、スイッチング速度が速い場合と遅い場合のメリットデメリットを紹介しましょう。

スイッチング速度が速い場合

メリット

スイッチング損失が小さくなる

スイッチング周波数を高くできる

デッドタイムの設定時間を短くできる

 

デメリット

VOUT端子のアンダーシュートが大きくなる恐れがある

主回路に発生するサージ電圧が大きくなる(主にモータなどインダクタ成分のある負荷の場合)

出力にリンギングが発生しやすくなる

 

スイッチング速度が遅い場合

メリット

VOUT端子へのアンダーシュートが小さくなる

主回路に発生するサージ電圧が小さくなる

 

デメリット

デッドタイムの設定時間を長くする必要がある

スイッチング損失が大きくなる

スイッチング周波数を上げにくくなる

 

軽くまとめるとこのようなメリットとデメリットがあります。簡潔に言うと、極端にスイッチング速度が速くても遅くてもだめというわけです。この中でも特に注意しなければならないのが、デッドタイムの時間とスイッチング時間の関係です。デッドタイムの時間に対してスイッチング時間が遅い場合、ハイサイドとローサイドのMOSFETが同時にONになるタイミングができて、過大な電流が流れる恐れがあります。言葉だけではわかりにくいと思うので、実際にダメなパターンのゲート電圧波形を見てみましょう。
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画像の黄色線がローサイド側のMOSFETのゲート電圧、水色線がハイサイド側のゲート電圧で縦の白線の内側がデッドタイムとなっております。

デットタイムは1usを入れていますが、デッドタイムの終わり(右側の白線)の時点ではローサイド側のゲート電圧が8Vぐらい残っていることがわかります。今回使用しているMOSFETのスレッショルド電圧は2V程度なので、デッドタイム終了時点でもローサイド側MOSFETONになっていることは明らかです。逆にハイサイド側のMOSFETONにし始めた(デッドタイム終了時)ほぼ同時にスレッショルド電圧を超えています。これによって、図のオレンジで示した時間はハイサイド側とローサイド側の両方のMOSFETが同時にONになっているというわけです。

このようにハイサイド側とローサイド側のMOSFETが同時にONになってしまうと、その間は過大な電流(貫通電流)MOSFETに流れることとなり、大きな損失が発生するほか、最悪MOSFETが故障します。そのため、ハイサイドとローサイドの両方が同時にONになることは防ぐようにゲート抵抗を決めなければなりません。(少なくともパワー回路では)

 

今回はケースファンやステッピングを演奏する低圧のMOSFETを使用した場合で「ある程度のゆとりをもって貫通電流が流れない程度」のスイッチング時間とした場合のゲート抵抗の選定をしたいと思います。

 今回はゲート抵抗を110Ω、47Ω、10Ωの場合のゲート電圧の波形とVOUT端子の波形を見て、そこからゲート抵抗の選定を行いたいと思います。

まずは、ゲート抵抗110Ωの場合から

ローサイドの立ち下り、ハイサイド立ち上がり時のゲート電圧
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※オシロのオフセットの設定ミス?で基準電位がちょっとずれているので、Vminが負電圧になっています。

 

ローサイド立ち上がり、ハイサイド立ち下り時のゲート電圧
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VOUT端子の立ち下り時(ローサイドがONになるとき)
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VOUT端子の立ち上がり時(ハイサイドがONになる時)
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波形からみて明らかにハイサイドと両サイドが同時にONになっていることが明らかですね。つまり、デッドタイム1μsに対してスイッチング速度が遅すぎるということです。結果、貫通電流が流れることにより大きな損失が発生し、MOFETの破損につながります。つまり、大きな問題があるというわけです。また、貫通電流の影響か何かで、MOSFETハイサイドの立ち上がり時のVOUT端子とゲート電圧にオーバーシュートが発生しています。

 

次にゲート抵抗が47Ωの場合です。

ローサイドの立ち下り、ハイサイド立ち上がり時のゲート電圧
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ローサイド立ち上がり、ハイサイド立ち下り時のゲート電圧
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VOUT端子の立ち下り時(ローサイドがONになるとき)
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VOUT端子の立ち上がり時(ハイサイドがONになる時)
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先ほどの110Ωの場合に比べると、ゲート電圧の立下り立ち上がりは速くなりました。ですが、この状態でもまだ、ハイサイドとローサイドが同時にONになって貫通電流が流れてしまう瞬間があります。貫通電流が流れる時間はかなり短くなったので、損失もそこまで大きくないとは言えますが、完璧とは言えないでしょう。

また、VOUT端子のハイサイド立ち上がり時のオーバーシュートも大幅に減少しています。

 

最後にゲート抵抗が10Ωの場合です。

ローサイドの立ち下り、ハイサイド立ち上がり時のゲート電圧
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ローサイド立ち上がり、ハイサイド立ち下り時のゲート電圧
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VOUT端子の立ち下り時(ローサイドがONになるとき)
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VOUT端子の立ち上がり時(ハイサイドがONになる時)13

先ほどの47Ωの場合に比べてゲート電圧の立下り立ち上がりはさらに速くなりました。今回の場合は、デッドタイムが終了する立下りの初めから1μs立った時点で、ゲート電圧は1V程度まで降下しており、ハイサイドとローサイドのMOSFETが同時にONになることはなくなりました。また、VOUT端子の波形を見ても特に、アンダーシュートは見られず、オーバーシュートはわずかにあるものの、大きさ的にも問題がないレベルと見れます。

 

110Ω、47Ω、10Ωの3種類の波形から、今回の条件であるMOSFETを「EKI04027」ゲートドライバを「L6384E」を用いたときのゲート抵抗の最適値を求めます。
貫通電流対策とVOUT端子のアンダーシュートの観点から、ゲート抵抗は3つのなかでは10Ωが最も良いと見れます。ゲート電圧の波形からゲート抵抗の最適な範囲としては10Ωから20Ω程度だと言えるでしょう。

 

ゲート抵抗の値は、使用するMOSFETのゲート容量やスレッショルド電圧、ゲート駆動電源の電圧によって変動します。実際にゲート抵抗を選定する際にはこのことを考慮したうえで設計しなければなりません。MOSFETのゲート部はコンデンサの特性を持っていることから、MOSFETのゲート電圧の立下り波形は以下の式で近似できます。
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この式である程度の近似はできますが、MOSFETのゲート部の内部抵抗やゲートドライバの最大電流などにより、ゲート電圧の計算値は低めに出てしまいます。(今回の条件ではオシロの波形に比べて、計算値は1~2V程度高めに出ています)MOSFETのゲート部の内部抵抗に関しては、上の式のゲート抵抗に足し合わせることで計算が可能ですが、ゲートドライバの最大電流の考慮はできません。(数式はあるかもしれないけど…)

また、ゲート容量については、ゲート電荷量とゲート電圧から計算を行い算出した方が、正しい値と考えられるため、ゲート電荷量から計算をしています。(MOSFETのデータシートのゲート容量はゲート電圧0V時の容量が書かれているため)

また、ゲート駆動電圧が今回とほぼ同じ場合は、ゲート抵抗はゲート容量に逆数倍にすればそこそこ良い値となるでしょう。

 

今回は、不明瞭な点が多いゲート抵抗の値の選定方法を紹介しました。ゲート抵抗はスイッチング速度の要求する条件によって大きく変わりますが、趣味でモータドライバ回路などを設計する場合は今回の条件(貫通電流が流れない程度のスイッチング速度)に近い場合も多いと思うので、ある程度の参考にはなったと思います。(小電力である信号用とかの場合は話が変わってくるとは思いますが…)
今回でゲート駆動関連のお話はいったん終了とし、次からはしばらくマイコン系のお話をしたいと思います。


回路編第12回 ゲートドライバICの使い方ver2 その2

2018/09/28追記
本ページで紹介しているゲートドライバL6384E(DIP版)はどうやらディスコンになった模様です。SOP版については現状取り扱い終了の表示は出ていないので本記事を利用する場合はSOP版を使うまたは、一部仕様の変化を対処したうえでIR2302などほかのゲートドライバICの利用になると思います。

前回は、ゲートドライバICの全般的なお話をしてきましたが、今回は、実際にゲートドライバICを使った回路の設計のお話をしていきたいと思います。

まずは、今回使用するL6384E関連の資料を並べます。(STマイクロの資料はすべて英語です)

データシート:

http://www.st.com/content/ccc/resource/technical/document/datasheet/group0/d3/35/0e/fc/db/e1/45/52/CD00169715/files/CD00169715.pdf/jcr:content/translations/en.CD00169715.pdf

アプリケーションガイド:

http://www.st.com/content/ccc/resource/technical/document/application_note/5c/00/05/fd/e5/65/46/97/CD00004008.pdf/files/CD00004008.pdf/jcr:content/translations/en.CD00004008.pdf

技術資料(ヒントとコツ)

http://www.st.com/content/ccc/resource/technical/document/application_note/cd/92/16/b2/e7/fc/4d/97/CD00004191.pdf/files/CD00004191.pdf/jcr:content/translations/en.CD00004191.pdf

ブートストラップ回路の設計資料:

http://www.st.com/content/ccc/resource/technical/document/application_note/fa/ed/25/78/92/26/4c/44/CD00004158.pdf/files/CD00004158.pdf/jcr:content/translations/en.CD00004158.pdf

以上がSTマイクロの公式の資料です。

これに加えて、参考用にIR社のアプリケーションシートも紹介しておきます。

https://www.infineon.com/dgdl/AN-978.pdf?fileId=5546d46256fb43b301574c6029a97c36

こちらは日本語なので読みやすいかなと思います。

 

アプリケーションには設計に必要な情報がいろいろと書かれていますが、内容自体はとても難しいです。筆者も比較的重要だと思われる個所を主に読んで設計を行っています。(製品にするなら細かなところも必要だと思いますが、趣味レベルなら細かなところは無視してもいいかなと思っています。)筆者が重要だと考えている点は、ブートストラップ周りの部品選定と耐圧設計です。

 

まずは、ブートストラップ周りの部品を選びます

初めはブートストラップコンデンサの選定です。
前回紹介した数式にて計算を行います。(STの技術資料(ヒントとコツ)にもリーク電流などを考慮した数式がありますが、今回はIRの数式を使うこととします。)使用するゲートドライバは前述のとおりL6384EMOSFETは秋月で50円で売られている「EKI04027」を使います。また周波数はステッピングの最低パルス数を秒間100回として100[Hz]にします。(Qgは実使用が13Vでデータシートが10Vで大きな差がないので10Vで近似計算(あとで安全率を高めに見積もって打消))

式1
また、Vcc13.5V ダイオードの順方向電圧降下を0.6Vとして計算をします。ローサイドのMOSFETの順方向電圧降下はわずかなので0として計算します。

式2
これに安全率15をかけます。

式3
計算結果としては3.3uF4.7uF程度で十分ですが、積セラの容量低下と余裕を考慮して今回は10uFの積層セラミックコンデンサを使用することとしました。

次にダイオードの選定です。

電流値は以下の式で計算します。周波数は想定最大周波数の2kHzを入れました。

式4
また、耐圧をリカバリ時間は前回の通り以下の式で表せます。

式5
これより、安価なファストリカバリダイオードである「UF4007」を選定しました。

 

次に耐圧と動作電圧関係のお話です。

まずは耐圧の確認を行います。L6384Eのデータシートの4ページに書かれている最大絶対定格を見ます。

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この表からVccの動作は範囲は-0.3~14.6Vであることがわかります。ゲートドライバに14.6Vを超える電圧を印可すると壊れてしまう恐れがあるので注意をしてください。この表記からゲートドライバの電源は14.6V以下なら何でもいいと思ってしまいます。しかし、実際には次の項目に注意しなければなりません。

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データシートの7~8ページにまたがって書かれてる、DC operationの表に注目します。この表の上から2行目と3行目の「VCCth1:Vcc UV turn-on threshold」と「VCCth2: Vcc UV turn-off threshold」です。ゲートドライバICVccに印加される電圧が下がった時には、回路保護のため出力を停止する機能が搭載されています。この2つの項目は電圧が下がった時に出力を停止させる電圧(Vccth1)と電圧が回復した時に出力を復帰させる電圧(Vccth2)を示しています。そのため、ゲートドライバIC電源電圧は「Vccth1:出力復帰電圧」以上「Vcc(max):最大定格電圧」以下である必要があるというわけです。これを守らないとゲートドライバが動かないあるいは、破損するといった事故が発生する恐れがあります。

 

話を絶対最大定格の表に戻します。最大絶対定格の表の一番上のVOUT端子の電圧特性を確認します。ここには-3~VBOOT-18 と書かれています。なぜ、これを注意しなければならないかというと、ローサイド側のMOSFETONにした瞬間にアンダーシュートとしてVOUT端子に瞬間的に負の電圧が印可される場合があるからです。技術資料(ヒントとコツ)の12ページやIRのアプリケーションシートの8ページにこのことの記載があります。VOUT端子に-3Vを下回る負の電圧がかかるとコンデンサが過充電となり、ハイサイドドライバの耐圧である18Vを超え、結果的にゲートドライバICが破損する恐れがあるというわけです。

アンダーシュートにより発生する電圧は技術資料(ヒントとコツ)に計算方法が書かれていますが、配線のインダクタンスが正しく計算するのが難しいので、オシロスコープなどを使って実測するのが正確だと思います。この計測結果は次回の記事で紹介したいと思います。

アンダーシュートを減らすためにはスイッチング速度を遅くすること、そして配線のインダクタンスを減らす方法の2通りがあります。

前者のスイッチング速度はMOSFETのゲート抵抗により決まります。ゲート抵抗を大きくするとスイッチング速度が遅くなりアンダーシュートが減らせますが、ほかにも不都合が生じる恐れがあるため注意が必要です。ゲート抵抗の選定については次回の記事で紹介したいと思います。

配線のインダクタンスを減らす方法はIRのアプリケーションシートの8ページから9ページにかけて記載があるので確認をしてください。ここに書かれている内容をまとめると以下のようになります。

・配線はできるだけ短くする

・ゲートドライバICMOSFETはできるだけ近づける

・ブートストラップコンデンサの容量は0.47uF以上にする

・ゲートドライバの電源(Vcc)GNDの間にブートストラップコンデンサの10倍以上の容量のコンデンサを入れる

これくらいのことをすればアンダーシュートは減らせるというわけです。特に最後のVccGND間のコンデンサはゲートドライバ電源の瞬間的な電圧降下対策にもなるので入れることをお勧めします。

 

最大定格に関する項目で注意しなければならないのは以上だと思います。あえて言うと、

VBOOT端子の耐圧(主回路の耐圧)がありますが、ここの耐圧は600V程度あるので基本的に、問題になることはないと思います。

 

次に入力端子周りの設計を行います。

入力端子はINDT/SD端子の2つがありそれぞれの入力は以下のように設計します。

IN端子

ハイサイド側のMOSFETONにするか、ローサイド側のMOSFETONにするかの切り替えを行う端子です。この端子にHが入力されるとハイサイド、Lが入力されるとローサイドがONになります。

内部的にプルダウン抵抗が搭載されており、外付けでプルダウン抵抗を取り付けなくても動作させることが可能です。ただし、抵抗値が非常に高いので状況に応じて外付けでプルアップ抵抗やプルダウン抵抗を取り付ける必要があります。(入力にフォトトランジスタ出力のフォトカプラを取り付けた場合は、外付けでプルダウン抵抗を取り付けないと立下り動作が遅くなりすぎて使いもになりません)また、入力がシュミットトリガになっているので入力状態の安定性が高くなります。

 

DT/SD端子

出力のシャットダウンとデットタイムの設定端子です。

出力をシャットダウン(ハイサイドもローサイドもOFF)したいときは、この端子に閾値を下回る電圧を入力します。データシートのDC operation の表の一番下に書かれているVdtShutdown threshold)を確認すると0.5Vと書かれています。つまり、この端子に0.5V以下を入力すれば出力がシャットダウンされるというわけです。なお、出力をシャットダウンすると、モータは開放状態となります。

デッドタイムの設定は、この端子をGND間に接続する抵抗値の大きさによって決まります。抵抗値の大きさとデッドタイムとの関係のグラフはデータシートの11ページの「Figure.7 Deadtime vs. resistance」に書かれています。

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また、DC operations の下から2つ目のdt(Deadtime seting range)にも主要な抵抗値とデッドタイムの対応が書かれています。今回はデッドタイムを1[us]にするのでRdt100[kΩ]を選定しました。

なお、この端子はデッドタイムの設定とシャットダウンを兼ねているので、両方の機能を使うためにはちょっと注意が必要です。シャットダウンを使用するためにトーテムポール出力になっているものを使用すると、デッドタイムの設定ができなくなります。そのため、オープンコレクタ出力のもの(フォトトランジスタ出力のフォトカプラなど)を接続する必要があります。

 

次に出力端子系の設計を行います。

VBOOT端子

 ハイサイドドライバの電源端子です。この端子にはブートストラップコンデンサの+側を接続します。また、条件によりブートストラップダイオードを取り付けます。

内蔵のブートストラップダイオードの情報が、アプリケーションガイドの17ページに書かれています。内蔵のブートストラップダイオード(厳密にはDMOSを含むらしい)は外付けダイオードに比べてリーク電流が小さいという特徴がありますが、周波数が高くなると電圧降下が高くと記載があります。高周波の場合はアプリケーションシートの17ページ下部の数式で計算が必要な模様です。また、ブートストラップコンデンサの容量が大きい場合(1~2uF以上)も外付けのダイオードの使用が必要ととらえられる記載があります。そのため、今回は外付けでブートストラップダイオードを取り付けます。

 

HVG端子

 ハイサイドドライバの出力端子です。ゲート抵抗を介してハイサイド側MOSFETのゲートに接続します。

VOUT端子

 ハイサイドドライバの基準電位となる端子です。ブートストラップダイオードの-側を接続するほか、ハイサイド側MOSFETのソース端子も接続します。ハーフブリッジやフルブリッジの場合は自動的にローサイド側のドレイン端子とも接続することになります。

LVG端子

 ローサイドドライバの出力端子で、ゲート抵抗を介してローサイド側MOSFETのゲートに接続します。

 

端子周りの設計はこのように行えばできるでしょう。では実際に設計した回路を紹介します。

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今回筆者が設計したstepVVVFはコストカットのため入力のフォトカプラをトランジスタ出力のものを使っています。本当はもっと高速で動作する信号用のフォトカプラあるいはトーテムポール出力のフォトカプラを使用するべきですが、音楽を鳴らす周波数レベルでは問題がないためこのような構成にしました。接続は先ほどまでに紹介したとおりに接続を行っています。なお、MOSFET手前のRp1,2MOSFETのプルダウン抵抗でドライバICの不具合などでゲートがハイインピーダンスとなった時に、確実にゲートの電位をソースレベルに落とすためのものです。

 

以上で、ゲートドライバICを使った回路の設計は終わりです。次回はMOSFETのゲート抵抗をオシロスコープの波形を見ながら選んでみたいと思います。

回路編第11回 ゲートドライバIC(L6384E)の使い方ver2 その1

2018/09/28追記
本ページで紹介しているゲートドライバL6384E(DIP版)はどうやらディスコンになった模様です。SOP版については現状取り扱い終了の表示は出ていないので本記事を利用する場合はSOP版を使うまたは、一部仕様の変化を対処したうえでIR2302などほかのゲートドライバICの利用になると思います。

回路編を書くのはずいぶんと久しぶりですね。今回は、ゲートドライバICの使い方のお話をしたいと思います。ゲートドライバのお話はずいぶん前の記事でも紹介していましたが、わかりにくかったということで書き直しをしたいと思います。

 

今回使用するゲートドライバはSTマイクロ製の「L6384E」というゲートドライバです。このゲートドライバはRSコンポーネンツで20個以上買うと1つあたり約80円とDIPのゲートドライバの中では非常に安いのが特徴です。他にもデッドタイムの長さを調整する機能やブートストラップダイオードが内蔵されているなどいろいろと面白い使い方ができます。

 

まずはL6384Eのデータシートをご覧ください。(英語ですが…)

http://www.st.com/content/ccc/resource/technical/document/datasheet/group0/d3/35/0e/fc/db/e1/45/52/CD00169715/files/CD00169715.pdf/jcr:content/translations/en.CD00169715.pdf

 

とはいえ、今回はゲートドライバICの全般的な抽象的なお話をしたいと思います。

最初にゲートドライバの構造のお話をします。

データシートの3ページ目に内部の構造の簡易的な図があります。
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内部の構造はざっと3つに分けられます。画像の青で囲んだロジック部、赤で囲んだハイサイドドライバ、黄色で囲んでローサイドドライバです。それぞれの部分別に機能の紹介をしたいと思います。

ロジック部 

入力信号をMOSFETを動作させる信号に変換を行う回路です。MOSFETON/OFFの遅れによる回路の一時的なショートを防ぐためのデッドタイムの挿入や入力ミスによるハイサイド側とローサイド側が同時にONにならないような処理も行っています。これらの機能によりパワー回路を安全に動作させることが可能になります。(例外でこれらのこれらの機能が搭載されないゲートドライバもあり、前回紹介したIR2110は例外に含まれます) 

入力端子は出力側であるハイサイドドライバやローサイドドライバとは絶縁されており、入力端子に5V程度を入力すればH状態として認識されるので、直接マイコンの端子に接続することも可能です。ですがGNDが共通であるほか、フォトカプラのような完全な絶縁とは言えないので、気になる場合はフォトカプラなどを使ってマイコン側と絶縁を行ってください。

また、入力端子は内部的にプルアップやプルダウンがされているものが多いので、必ずデータシートを確認してから回路設計をしなければなりません。

 

ハイサイドドライバ

ハイサイド側のMOSFETを駆動するための回路です。内部には下図のようなトーテムポール回路が組み込まれており、MOSFETを高速にON/OFFすることが可能になっています。
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ロジック部からはレベル変換器を通して接続されているので負荷にかかる電圧(GNDとハイサイドドライバの基準電位との間の電位差)はかなりの電圧(600Vぐらいまでのが多い)に耐えるものが多くなっています。

ハイサイドドライバの電源は、ブートストラップにより供給されています。詳細は後で紹介します。

ローサイドドライバ

ローサイド側のMOSFETを駆動するための回路です。ハイサイドドライバと同じくトーテムポール回路が組まれており高速にMOSFETを駆動させることができます。ハイサイド側とは異なりローサイドドライバの基準電位はGNDなのでレベルシフタは内蔵されていません。また、電源もゲートドライバICの電源をそのまま使っています。

 

ブートストラップの仕組み

 ブートストラップはコンデンサとダイオードを使ってハイサイドのゲート駆動電源を容易に作る方法です。ローサイド側を含めた全体の構造は下図のようになっています。
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ゲート抵抗とかの周辺部品は見やすさを上げるために省略しています。

回路図よりローサイド側は特に何もありませんが、ハイサイド側にはダイオードとコンデンサが搭載されていることがわかると思います。これがブートストラップのミソと言える部品となります。

通常モータを駆動するときはPWMと呼ばれる疑似アナログ出力を使用します。PWMは高速でON/OFFを繰り返す信号です。ゲートドライバの入力にHigh(ON)を入力するとハイサイド側がONLow(OFF)を入力するとローサイド側がONになるので、ゲートドライバにPWMを入力するとハイサイドとローサイドが高速で切り替わることになります。

まずはローサイド側がONの時を考えます。
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ローサイド側がONの時は図のようにOUTPUT端子の電位は0V(GNDと同電位)になります。すると、ブートストラップダイオードとブートストラップコンデンサを介してVccGNDを結ぶ回路が構成されます。充電されていない状態では、コンデンサにかかる電圧は0Vなので、ダイオードには順方向にVccの電圧がかかります。すると、ダイオードはONとなり電流が流れ、コンデンサに充電されるというわけです。この時の回路をもっと簡単に書くと下のようになりますね。
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次にハイサイド側がONの状態を考えます。
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ハイサイド側がONの時は図のようにOUTPUT端子はVDDとほぼ同電位になります。つまり、ハイサイド側の回路の基準電位がGNDレベルからVDDのレベルに引きあがられるということです。コンデンサが充電されていたとすると、ダイオードのカソード側の電圧は大体VDD+Vccとなるので、ダイオードはOFFになり、コンデンサの電荷はハイサイドドライバの電源となります。(ハイサイドドライバに電池のようなものがつながっていると考えたらわかりやすいかもしれません)この時の回路を簡単に書くと次のようになりますね。
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最後にハイサイドもローサイドもOFFになっている状態を考えます。
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両方の端子がOFFになっている場合はOUTPUT端子は分圧によって電位はおよそVDD/2になります。コンデンサが充電されていた場合は、ダイオードのカソード端子の電圧はVDD/2 + Vccとなるため、ダイオードはOFFとなります。そのためコンデンサはこれ以上充電されません。 コンデンサが空の場合も電流の流れる先がないため基本的に充電されません。

この状態はハイサイド側の基準電位がGNDレベルになっていないので、基本的にはハイサイド側がONの時の準備状態と考えればよいでしょう。

 

ブートストラップの原理はこのような感じになっています。簡潔にまとめると、ローサイドがONの状態の時にコンデンサを充電し、ローサイドがOFFになるとコンデンサが独立し、ハイサイドドライバの電源になるというわけです。

この原理からもお分かりだと思いますが、ブートストラップを使用するには、ハイサイドドライバの電源であるコンデンサを充電する時間を設ける必要があります。つまり、ずっとONにしておくことはできず、PWMを使って一定時間ローサイドがONになるようにしなければならないというわけです。

PS. MOSFETは絶縁ゲートなので一度ONにしたら、理論上は電流を流さなくてもずっとONになると言えますが、実際にはハイサイドドライバなどに電流が流れるため、ONにしている間は、わずかながらにもずっと電流が流れ続けます。なので充電されるまでコンデンサの電荷は減り続けるというわけです。

 

続いてブートストラップに使用する部品の選定方法を紹介したいと思います。

ブートストラップコンデンサの容量選定

L6384Eのデータシートにも容量計算の数式が書かれていますが、ハイサイドドライバの消費電流などが考慮されていない数式なので、今回もIRのアプリケーションシートに従った計算を行います。(アプリケーションシート:https://www.infineon.com/dgdl/Infineon-dt98-2j.pdf-AN-v01_00-JA.pdf?fileId=5546d46256fb43b3015756f4cf4643fb)

 2ページの式1からブートストラップコンデンサの最低の電荷の容量が求まります。
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式1

Icbsはケミコンなどで発生するが、通常データシートに書かれていないので、計算できません。そのため、Icbs=0で計算を行い、最後の安全率の倍率を少し高めると良いと思います。
18/01/24追記 QgはVgsの電圧によって変化します。データシートのQg欄の条件を確認して、条件に書かれているVgsと実際に使用するVgsが離れている場合は、データシートのVgsとQgの関係グラフなどから適時補完をして下さい。(グラフがなければVgs2倍→Qg2倍で近似すればよいと思います。)

 

次にブートストラップコンデンサの容量に変換します。ページ3の式2を先ほど計算した値を使って表すと次のようになります。
式2

これによって、必要最低限のブートストラップコンデンサの容量が求まりました。しかし、この容量ではコンデンサの電圧変動が激しくなります。また、積層セラミックコンデンサの特性上、電圧が高くなると容量が減るといった問題もあります。容量が足りないとゲートを正しく駆動できずゲートドライバICにダメージを与える場合があるので、ブートストラップコンデンサの容量を選定するときは、安全率として上の式で計算した値の15倍程度をかけた容量のコンデンサを取りつけます。容量が多少大きくても不都合が生じないので、15倍して算出した容量のコンデンサがない場合は、容量が大きい側で近い値のコンデンサを選定してください。

 PS. IGBTなどゲート電荷量[C]がデータシートに書かれていない場合は、ゲート容量[F]×ゲートソース間電圧[V]=ゲート電荷量[C]でゲート電荷量の概算を算出してください。しかし、この式で計算をした値よりもゲート電荷量が大きい場合がある(両方書かれているデータシートより)ので、安全率として2程度をかけた値を使用すると良いと思います。

 

ブートストラップダイオードの選定

 ブートストラップダイオードの選定で特に考慮しなければならないので、ダイオードの耐圧と逆回復時間です。

 ダイオードの耐圧は主回路に印加される電圧以上でなければなりません。その理由は、ハイサイド側がONになった時には、下図のようにダイオードに主回路の電圧がそのまま印加されるためです。
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次にダイオードの逆回復時間ですが、IRの資料によると逆回復時間は100[ns]以下である必要があるそうです。つまり、普通のダイオードではなくファストリカバリダイオードが必要というわけです。その理由を説明したいと思います。

回路がローサイド側からハイサイド側に切り替わる時は下図のように一気に電圧の向きが変わります。
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このように電流の向きが変わる時には、瞬間的に逆方向に電流が流れてしまいます。この流れる時間が逆回復時間と呼ばれるものです。逆方向に電流が流れるときは、ダイオードで大きな抵抗が発生し、熱となります。逆回復時間が長いと、この発熱量が大きくなり場合によってはダイオードが破損する可能性があるというわけです。

この2つのほかにも耐電流の計算も必要です。先ほどの2つとまとめて以下に示します。
式3

ゲートドライバICのブートストラップに用いる回路部品の選定は以上のようなやり方で行えます。ゲートドライバの周辺回路の設計では、MOSFETのゲート抵抗の選定も非常に重要ですがこれは、次々回の記事でオシロスコープで測定した波形とともに検証していきます。次回は実際にL6384Eを例にゲートドライバICを使った回路の設計をしていきたいと思います。

回路編 第10回 整流回路

今まではVVVFの要の部分である半導体スイッチの関連のお話をしてきましたが、今回は自作VVVFの電源となる整流回路のお話をしたいと思います。

 

整流回路交流を直流に変換するための回路です。搭載する部品は基本的にはダイオードとコンデンサとなるので、回路としてはシンプルです。ダイオードの代わりに半導体スイッチを使い、入力の波形に応じてON/OFF制御することも可能ですが、主にVVVFを逆動作させる場合や、大電力の場合で使われ、電子回路レベルでは基本的に使わないので省略します。今回は基本的な整流回路の種類について紹介して、それに取り付けるコンデンサの容量についても紹介します。

 

半波整流回路

整流回路の中で最も簡単な回路です。初めに、コンデンサをつけていない場合の回路図と出力の波形を見てみましょう。

半波整流回路図

右の+-が中に入った〇が交流電源を表しています。(本来の記号は〇の中に~ですがご了承ください)そして抵抗器が負荷を示しています。すなわち、抵抗器の両端が出力電圧というわけです。

入力波形と出力波形を見ます。

半波整流

黒線が入力の正弦波の電圧波形、青線が出力の電圧が波形です。完全な理論値での波形の場合出力波形で電圧出力時は入力波形の0Vより上の部分と全く同じになりますが、今回はシミュレータにかけたため少しなまった波形になっています。

この回路では入力の電源の半分しか出力されていないため、無駄が多いうえに、出力が0Vの間が長く続くため、一定の電圧出力にするためには大型のコンデンサが必要となります。そのため、この回路は小型省電力の場合に使われます。

一般的に整流回路としてよく使われるのが次に紹介するダイオードブリッジを使った方法です。

 

全波整流

 全波整流はダイオードブリッジを使うことにより交流の波形すべてを出力可能にしたものです。回路図は以下のようになります

全波整流回路

回路図のようにダイオードブリッジの中間点から交流を入力すれば、ダイオードのカソードから+ アノードから-の直流が出てきます。

 全波整流

入出力の波形はこのような感じになります。短波整流では交流波形の正の部分しか出力されなかったのに対して全波整流では負の部分も正の向きに変換されて出力されます。このため電力を効率よく使用できます。また、電圧が出力されない期間がほとんどないのでコンデンサの容量を減らすこともできます

 

整流回路のコンデンサ

次に半波整流と全波整流でコンデンサを搭載した場合の波形を見てみます。

今回は半波整流・全波整流ともに470uFのコンデンサを取り付けた場合を仮定して波形を出しました。なお、負荷抵抗は100Ω、入力電圧の実効値は100Vとします。

半波回路C
全波C回路

コンデンサは図のように負荷に並列に接続しています。

この回路の出力波形は以下のようになります。


半波C
全波C

この波形からも同じ容量のコンデンサを接続した場合でも全波整流の方が、明らかに電圧変動が少ないことがわかります。

 

コンデンサの容量計算

次にコンデンサの容量の目安の計算を紹介します。

コンデンサの電圧と電流の関係は以下の式で表すことができます。
式1

の式を変形してコンデンサ容量の式にします。

式2

ここで電圧変動「dV」をリップル、つまり出力波形の許容電圧変動とします。また、電圧変動の時間「dt」を先ほどの整流波形の最大値の間隔、つまり60Hzの交流の場合半波整流で1/60[s] 全波整流で1/120[s]と考えます。これによって、コンデンサ容量の計算ができます。

 

倍電圧整流

VVVFを作る場合基本的にモータは3200Vのものが多いです。しかし、家庭用の電源は100Vであるため、電圧を上げる必要がります。トランスを使う方法もありますが、それを使わずに整流回路で電圧を倍できる倍電圧整流というものがあります。倍電圧整流の回路図は以下のようになっています。

倍電圧回路

この回路の考え方としては半波整流を2つ用意し、そのうち1つだけ向きを逆にして直列につないだ形といえるでしょう。その結果、正の向きの波で上側のコンデンサを充電し、負の向きの波で下側のコンデンサを充電されます。そしてこの2つのコンデンサが直列につながれているため倍の電圧が出力されます。次に出力波形を見ます。

倍電圧

初期の波形の形が少しややこしい波形となっていますが、0Vを基準にして入力電圧の倍程度の電圧が出力されていることがわかると思います。

全波整流や半波整流では出力電圧が約140Vでしたが倍電圧整流ではその倍の280Vが出力されていないことが波形からわかります。この理由は、倍電圧整流の2つのコンデンサが充電されるタイミングが半波分ずれるためです。そのため、充電された側のコンデンサがある程度放電されたときに、もう片方のコンデンサが充電されます。結果として最大電圧が280Vとなりません。なお、コンデンサの容量を大きくすることで改善が可能です。

ここで先ほどの倍電圧整流のコンデンサ容量を4倍にした波形を見てみます。
倍電圧改善

これによって出力の最低電圧が全波整流の倍の電圧となり最大電圧もほぼ280Vとなりました。

PS.起動時に入力電圧程度の出力が出ているのは、初回は上の回路図の下側のコンデンサが充電されていないためです。

 

倍電圧整流のコンデンサの容量計算

コンデンサの容量の計算式は全波半波整流と同じ数式を使います。なお、コンデンサが直列に接続されているので実際に使うコンデンサは計算結果の倍の容量のものを使わなければなりません。これらを考慮して計算すると、全波整流と電圧変動を同じに抑えると、電圧変動の時間が2倍・直列による容量半減により、全波整流の4倍の容量のコンデンサが必要といえます。

 

コンデンサの容量計算の例

60Hzの交流を入力し、1Aの電流を流し、電圧変動を10Vに抑えるとします。すると以下の式で計算できます。

全波整流
式3
倍電圧整流

式4

回路編 第9回 トランジスタ

いままで半導体スイッチとしてMOSFETIGBTのお話をしてきましたが今回はもう1つの半導体スイッチトランジスタについてのお話をしたいと思います。

 

トランジスタはVVVFなどのデジタル回路ではスイッチとして使用されている部品ですがアナログ回路では電流増幅器などとして使用されます。トランジスタが関係するアナログ回路でメジャーなものと言えばオーディオ回路やラジオなどがありますが今回はここがメインのお話ではないので省略します。

近年ではパワー素子としてトランジスタが使われることは少なくなりました。しかし、今でも電子回路内でのスイッチとして使われることは多少あります。そのため、簡単ではありますがトランジスタの使い方の紹介をしたいと思います。

半導体スイッチの回でもお話したようにトランジスタというのは電流でON/OFFを切り替える電流制御の素子です。ベースに流した電流のhFE倍の電流がコレクタに流れます。  

 

トランジスタの周辺部品の選定

ここで初めにトランジスタを単純にスイッチとして使う場合の回路図を示してみます。

1

ここだけだとMOSFETIGBTの駆動回路とほぼ同じように見えます。しかし、ベース抵抗の求め方が今までとは全然違います。トランジスタのベース抵抗は以下のような手順で求めます。

2

コレクタに流れる電流は設計上で決めておき、その電流値と増幅率からベースに流す必要のある電流が求まります。しかしこの値は最低限度の値であり、このベース電流値ではトランジスタでコレクタに流れる電流を制御することになり、スイッチとして使用するのには適切とは言えません。また、部品の誤差などで場合によってはコレクタに流せる電流が設計値より小さくなるほか、トランジスタでの損失も大きくなる場合があります。そのため、ベースには少なくとも先ほど計算した電流の倍の電流を流すべきと言えます。これより許容できる最大の抵抗値は以下の式で求まります。

 3

実際に抵抗器を選定する際は、これより低い値の抵抗値を使います。なお、スイッチとして使う場合トランジスタを飽和領域で使うのが最適なので、前段回路が許容できるなら少し多めにベース電流を流す、つまりベース抵抗の値を下げると良いでしょう。

 

次にプルダウン抵抗ですが、こちらはプルダウン抵抗なので10kΩ程度を取り付ければ大丈夫です。また、トランジスタの場合はベースが電流駆動という仕様上ベースがハイインピーダンスになることがないのでプルダウン抵抗を省略しても大丈夫です。あくまで保護回路です。

 

増幅率の確保

次は、増幅率hFEの大きさについてのお話です。増幅率が高ければ少ない電流でスイッチを駆動できます。しかし、基本的に容量の大きな素子では一般的にhFEが低いという問題点があります。増幅率の目安としては、小信号用のトランジスタは増幅率が百から数百程度あり、大電流に耐える大型のトランジスタは百に満たない素子が多いです。そのため、大電流に対応する半導体スイッチを動かすためにはベース電流も多く必要になります。

そこで増幅率を稼ぐためにトランジスタの前段にさらにトランジスタを接続するダーリントン接続と呼ばれる回路を組むことがあります。ダーリントン接続の回路図は以下のようになります。

4

回路としては、トランジスタのベースにトランジスタを付けた単純な回路です。これによって増幅率の近似はTr1の増幅率とTr2の増幅率を掛け合わせたものになります。

なお、厳密な増幅率は以下のように求めます。

 5

厳密な計算としてはこのような計算ができますがややこしさに対して計算結果の差がそこまで大きくないです。例としてTr1の増幅率が100 Tr2の増幅率が20として計算をしてみます。単純な掛け算、正式な計算の順です。
6

しかし、このように複雑な計算を行い算出した厳密解と近似の計算の誤差はあまり大きなものではありません。そのため、増幅率の重要度が低い場合は近似式で計算しても問題ないでしょう。

 

近似と厳密解の計算例

例としてTr1の増幅率が100 Tr2の増幅率が20として計算をします。単純な掛け算、正式な計算の順です。
キャプチャ


計算結果としては5%程度の誤差がでましたが、実際のパワー回路の設計では素子の増幅率のばらつきの方が大幅に大きいので特に気にする必要はありません。

 

今回説明したダーリントン接続のトランジスタを1つのモジュールにしたものもあり、それをダーリントントランジスタと言います。このダーリントントランジスタは増幅率が高く耐電流も比較的大きいという特徴があるのでこのトランジスタが使える範囲ではダーリントントランジスタを使えば楽に回路を組むことができます。

トランジスタで大電流の回路を組む場合はこのようにダーリントン接続を使用して順次電流値を高めて大電流をスイッチング可能にします。なお、MOSFETIGBTと違い前段回路をトーテムポール回路にしなくてもよいのがメリットともいえるかもしれません。

 

トランジスタの選定方法

基本的にはIGBTに準じた計算方法で選びます。耐圧と耐電流が実使用する電圧・電流を満たしていることはもちろん発熱に対する損失も計算する必要があります。基本的に損失は順方向電圧降下と電流の積とスイッチング損失なのでIGBTの損失計算と同じように計算できます。なお、スイッチング速度が遅いのでスイッチング損失はIGBTに比べると非常に大きな値となります。

 

おまけ

アナログ回路でのトランジスタは電流増幅器として使われますので、目的の電流増幅率に応じてベース抵抗等を求める必要があります。また、トランジスタの増幅率のばらつきによる回路の性能差抑えるために、半固定抵抗を用いる場合も多いです。

トランジスタには今回紹介したエミッタをGNDに接続するエミッタ接地のほかに、コレクタを接地するコレクタ接地やベースを接地するベース接地などいろいろな使い方があります。

回路編 第8回 ゲートドライバ

ゲートドライバICの使い方を記事を新たに書き直しました。
http://vvvf.blog.jp/archives/6572197.html

こちらの方が図が多くわかりやすいかなと思います。

ゲートドライバICの機能

ゲートドライバICは名前の通りMOSFTIGBTのゲートを駆動するためのICです。内部の出力部には前回紹介したトーテムポール回路が内蔵されているほか、デッドタイムの自動挿入機能(一部非対応のものあり)ゲート駆動電圧の生成機能です。つまり、このICがあれば1つのゲート駆動電源ですべてのスイッチのゲート駆動ができてなおかつ高価なトーテンポール回路を内蔵したフォトカプラも不要というわけです。

 

ブートストラップ昇圧の仕組み

ゲート駆動の昇圧機能の仕組みと注意点の紹介をします。ゲートドライバICに内蔵されている昇圧機能は、ブートストラップと呼ばれるチャージポンプの一種です。

原理は、コンデンサに電荷を貯めてそのコンデンサに貯めた電荷を電源と直列に繋ぎ変えることで電圧を上げます。ゲートドライバICの場合はMOSFETがオフの時にコンデンサに電荷を貯め(充電)て、ONの時には充電されたコンデンサをゲートソース間に接続し、ゲート駆動電源にします。

これにより、1つのゲート駆動電源ですべての半導体スイッチを駆動できます。しかし、この原理上1つ問題があります、それはコンデンサに充電する時間を設けないとゲート駆動ができないということです。つまり、ハイサイドのMOSFETをずっとONにしているとコンデンサへ充電することができないので、ある程度の周期でハイサイド側をOFF・ローサイド側をONにする必要があります。(MOSFETIGBTのゲートは絶縁されているのでONになったあとは電流が流れないように思えますが、実際には半導体スイッチやゲートドライバ等の漏れ電流で多少の電流が流れます)つまり、特殊な回路を組まない限り常時ONが必要な回路では使用できないというわけです。

この点を理解したうえで回路設計を行う必要があります。

 

ゲートドライバICの選定方法

メインとなるゲートドライバICにもいろいろな種類があります。ハイサイド側・ローサイド側両方のスイッチを駆動できる製品のほか、昇圧機能を持たずローサイド側のみを駆動できる製品もあります。また、ハイサイド側・ローサイド側を独立してして駆動できる製品もあれば、入力信号のHLでハイサイド側・ローサイド側のON/OFFが切り替わる製品もあります。ですので用途に応じて選ぶ必要があります。

今回はハイサイド・ローサイド両対応でそれぞれ独立して駆動できるIR2110を使用します。なお、この製品にはハイサイド・ローサイド切り替え時のデッドタイムの挿入機能はありません.

データシートのURL:

https://www.infineon.com/dgdl/ir2110.pdf?fileId=5546d462533600a4015355c80333167e

英語ですが何とか読み解くことができるとは思います。

 

周辺回路の部品の選定

何もない状態では、周辺回路に何が必要かというのもわかりにくいのでデータシートに必要な回路図をデータシートから引用します。

IR2110

ゲートドライバICの周辺回路はこの回路図のように組む必要があります。

入力側(左側)のコンデンサはIC周辺に良く取り付けるパスコンですので、0.1μFから1μF程度のものを取り付けます。

右下のコンデンサは次にIRの資料を読み解くと次に紹介するブートストラップコンデンサの10倍の容量のコンデンサを取り付ける必要があると書かれています。ただし、パスコンとして扱って0.1~1μF程度のコンデンサを取り付けても、安定性や特性を除くと回路としての動作は確保できます

右上のコンデンサはブートストラップコンデンサです。ハイサイド側MOSFETのゲート駆動に使う電力はこのコンデンサにため込みます。そのため、計算を行ったうえで容量を出す必要があります。

 

ブートストラップコンデンサの容量計算

ブートストラップコンデンサの計算方法はゲートドライバICを製造しているIR社から分かりやすい資料が出ているのでこれをもとに計算します。

まずはURL

https://www.infineon.com/dgdl/Infineon-dt98-2j.pdf-AN-v01_00-JA.pdf?fileId=5546d46256fb43b3015756f4cf4643fb

この資料のpage2 の式1にこのコンデンサの最小電荷の計算式が書かれています。

 ir2110 式1 

この式でコンデンサの最小電荷量が求まります。ここで注意が必要なのがハイサイドスイッチのゲート電荷量です。これはゲート容量と異なるので注意が必要です。ゲート容量は単位が[pF]などのファラッドですが、ゲート電荷量は単位が[nC]などのクーロンとなります。データシートを読むとMOSFETの場合は大体データシートにゲート容量と合わせてゲート電荷量が書かれていますが、IGBTの場合書かれていない場合が多いです。この場合はゲート容量からQ=CVの式で算出できますが、MOSFETのデータシートを読むとゲート電荷量の方が倍程度大きい場合がありますので今回はQ=CVの式を2倍にした以下の式で近似を行います。

 ir2110 式2

これにてブートストラップコンデンサの必要な電荷量が求まりました。これを必要な要領に変換しますが、資料にも書かれている通り電荷が完全に0になるとゲートをONにできなくなるなどの不具合が発生するため、ここで計算した容量の最低2倍以上の容量が必要となります。このことを考慮したうえの式がpage3の式2です。ここでは上で計算した値を用いた計算式を紹介します。ir2110 式3

この式で最低限のコンデンサの容量が求まりますが、資料に書いてある通り容量の小さいコンデンサを使用すると過充電などが発生しゲートドライバICにダメージを与える場合があるので、大体15倍程度した容量以上のコンデンサを取り付けるとよいでしょう。

また、各パラメータは最悪の状態(周波数だとVVVFの場合非同期のPWM最低周波数or同期モードでの波形の最低周波数、その他のパラメータはデータシートにおける最悪値)で計算を行います。また、電解コンデンサを取り付ける場合は並列にパスコンを入れる必要があります。

 

ブートストラップダイオードの選定

重要な項目としては先ほどの資料に書かれている通りです。

・逆耐圧Vrrmが主回路の電圧以上であること

・最大逆回復時間が 100ns以下であること

・順方向電流IQbs(ゲート電荷量)×fmax(最大動作周波数)以下であること

を満たしているなら問題ありません。基本的に特性の良いファストリカバリダイオードを使うと良いでしょう。

 

ゲートドライバICの内部構造

ゲートドライバICの内部の回路は以下の回路で構成されています。データシートから引用しています。

ir2110回路図

左側の入力端子からプルダウン抵抗、シュミットトリガNOT回路、論理回路(RSFF3入力NOR)、レベルシフタ回路とありハイサイド側はさらにレベルシフタ回路やフィルタ回路等を挟みトーテムポール出力、ローサイド側は遅延回路等を挟みトーテンポール出力となっています。ちなみにシュミットトリガ回路というのは入力のHLの閾値を超えた時のみにHLが切り替わる回路で入力が高速に切り替わることなどを防いでくれます。RSFFは入力信号の保持を行っています。ここではあくまで紹介ですので、詳しくは各回路の名前で検索してください。


回路編 第7回 MOSFETとIGBTの駆動回路

前回にモータを回す回路やVVVFの回路を構成するための半導体スイッチの配置についてのお話をしました。今回はその半導体スイッチを動かすための回路のお話です。

半導体スイッチを駆動する回路はMOSFETIGBTゲート部が絶縁されているのでほぼ同じ構成ですが、トランジスタは少し、異なる回路構成となります。今回は前者のゲート部が絶縁型半導体スイッチであるMOSFETIGBTの駆動回路について説明します。まずは、簡単なラジコンのモータを回すような、低圧回路でのMOSFETの駆動回路について説明したいと思います。

 

ゲート駆動の考え方

前々回の記事で紹介したようにFETは電圧駆動で動作する素子です。内部的にゲートとソースは絶縁されているので理論的には電流は一切流れることはありません。しかし、実際にはソースとゲートが絶縁されていることによりソースとゲートの間にコンデンサができてしまいます。これを等価的な回路図にするとこのようになります。

ゲート部

このように、コンデンサがあることにより、出力をONにした瞬間に大電流が流れるという問題や電荷がわずかに漏れてしまう問題、それ以外にもOFFにしても電荷が残ってしまうことで、ゲート部の電圧が下がるのが遅くなり、FETOFFになるのに時間がかかってしまうなどの問題が発生します。これらを解決するには一定の電流内でできるだけ速くコンデンサを充放電させる必要があります。これを実現するためにはON時は電源から大きな電流を取り出し、OFF時はGNDに大きな電流を吐き出せる回路が必要というわけです。この要求を満たす回路にこのような回路があります。

トーテンポール

このような回路をトーテムポール出力とかプッシュプルと言います。INの端子からHIGHの信号が来ているときは上段のnpnトランジスタがONになって出力はVccとなり、INから信号がない(厳密にいうと電流が吸い込まれているとき)ときは出力はGNDとなるわけです。

プッシュプルの入力でもHIGHLOWの出力が必要となりますが、この回路を介すことでインピーダンスを大幅に下げることができます。そのため、スイッチとプルダウン抵抗程度の回路でも、出力段では比較的大電流が流せる出力信号が得られるというわけです。

 

実際にゲートドライブ回路を製作するときには、この回路が内蔵されているフォトカプラやゲートドライバICを使うのが便利です。このような部品を用いることで回路を小型に仕上げることもできます。

 

ゲートドライブ回路の設計

最初はトーテムポール回路が内蔵されたフォトカプラTLP-250を使ってラジコンのモータドライバのMOSFETの駆動回路を紹介します。


駆動回路

TLP-250でゲート駆動をする回路は、このような感じの回路になります。先ほどのトーテンポール回路がフォトカプラの中に内蔵されたので非常にシンプルな回路構成となります。

フォトカプラの周辺の部品について説明します。VccGNDの間のコンデンサはノイズ除去のためでデータシートに入れるように明記されているものです。

続いて3つの抵抗器の役目と選び方です。

Rled

これはフォトカプラ内部のLEDの電流制限を行う抵抗器です。抵抗器の回で紹介したLEDの抵抗選定の方法で抵抗器を選びます。5V回路の場合は330Ω程度になります。

R

MOSFETのプルダウン抵抗です。フォトカプラが故障等で信号が出なくなった時にMOSFETの入力が不定になることを防いだり静電気からの保護をしています。抵抗値はプルダウン抵抗ですので10kΩ程度で良いでしょう。

RG

FETのゲート抵抗です。先ほど紹介した通りMOSFETゲート部分にはコンデンサがあります。理論上ゲートに電圧を印加した瞬間に無限大の電流が流れてます。大電流が流れるとフォトカプラが壊れる可能性があるほか、MOSFETもリンギングを起こして壊れてしまいます。その電流を制限するのが抵抗器RGの仕事です。

この抵抗器の抵抗値の選定ですが、抵抗値が大きいとMOSFETのスイッチング速度が遅くなりスイッチング損失が大きくなります。逆に低い場合スイッチング速度は速くなりますが、リンギングが発生する場合があります。そのため、設計する回路の条件によりゲート抵抗を選定しますが、計算で求めるものではありません。実験を行い、オシロスコープなどで波形を確認しながら選定を行ってください。なお、ゲート抵抗の範囲としては数Ωから数百Ω程度が一般的です。(筆者はゲートドライバICを使っていますが、ゲート抵抗は10Ωにしています)

 

低耐圧回路の設計

抵抗器の選定ができたので先ほどの駆動回路を4つ並べて、モータを駆動できる回路を構成します。


FullN

NチャンネルのMOSFET4つを用いたHブリッジです。このような構成の回路をフルNHブリッジといいます。このタイプの回路は比較的大きな電力のモータを回す回路でよく使われています。

しかし、この回路ではラジコン等の小型の機械のモータを回すのには不都合な点があります。それは、NチャンネルのMOSFETの特性上モータの電源電圧より高い電圧のゲート駆動電源が必要ということです。ただし、この回路構成が使えるのは、「モータ駆動電源の電圧+ゲート駆動電圧 ゲートソース間耐圧」となっている場合に限られます

小型のラジコンレベルで複数の電源を用意するのは大変です。そのため、場合によりハイサイド(上側)のFETPチャンネルとしたHブリッジが使われる場合もあります。回路図を以下に示します。

PN

この回路は、PN混合のHブリッジです。PチャンネルのFETソース(+端子)より低い電圧をゲートに印加することでONになるため、バッテリの電源だけでMOSFETを駆動することができます。主に小型の小電力のモータを回すための回路で使われます。

しかし、PチャンネルのFETの性能はNチャンネルのFETの性能に比べて低いため大電流を流す回路には不向きという問題があります。また、NチャンネルのMOSFETPチャンネルのMOSFETで特性が違うと変な挙動を起こす可能性があるので特性を合わせた、NチャンネルとPチャンネルでコンプリメンタリのMOSFETを使うのが理想的です。(デッドタイムとかうまく設定すれば特性が違ってもきちんと動くかもしれないですが…)

以上でラジコンのモータを回すためのMOSFETの駆動回路は終わりです。

 

高耐圧回路の設計

次は高耐圧のIGBTを用いた回路設計をしていきたいと思います。先ほどのラジコンの場合の回路とは主に耐圧関連の設計が大幅に変わるということです。まず、ラジコンモータドライバで紹介したPN混合のHブリッジはIGBTでは実装できません。また、フルNチャンネルのHブリッジではゲート駆動電源をすべて同じ電源から取得していましたが、この構成もできません。つまり、ゲート駆動電源の設計も大幅に変わります。

まず、素子の耐圧(ソース・ドレイン間、コレクタエミッタ間)の選び方ですが最低でも入力の電源の電圧より高い耐圧の素子を使わなければなりません。実際には余裕をもって倍程度の耐圧のものを選ぶとよいでしょう。

例として、三相200VVVVFを作る場合を考えます。入力はAC200を整流したDC280V程度なので耐圧600Vの素子を使うと良いでしょう。

 

続いて素子の耐電流の選び方ですが、モータの定格出力を守って制御するなら定格の倍程度の電流に耐えるような部品を選べばよいでしょう。無茶な制御をしたい場合は10倍ぐらい余裕を持ておいた方がいいかもしれません。電圧電流の両方に対して言えることは高電圧がかかる回路なのでかなりのゆとりを持った設計をするのが大切ということです。

 

続いてソースゲート間、エミッタゲート間の耐圧のお話です。実はゲート部の駆動回路自体はこちらの耐圧の都合が非常に大きく関係してきます。耐圧が600V程度の製品でもソースゲート間やエミッタゲート間の耐圧は30V程度の製品が多いです。つまり、最初のラジコンの回路で用いたように電源電圧より高いゲート駆動電源を用意してその電源でゲートを駆動するということができないのです。理由を以下の回路図を使って説明します。


FullN -電圧

回路図を見ると、ローサイド側のスイッチのゲート部に120Vが印加されているのがわかります。これは、明らかに耐圧オーバーというわけです。ハイサイド側は、モータが駆動しているときは、ゲートソース間電圧は20Vぐらいになりますが、電源を入れた瞬間などにゲートソース間の耐圧を上回る可能性はあり得ます。ですのでこの方法でスイッチを駆動するということはできません

そのため、ある程度以上の電圧のHブリッジではそれぞれの半導体スイッチのソースとゲート間に別々の絶縁された電源を用意して半導体スイッチを駆動するというわけです。回路図で表すと以下のようになります。IGBT 駆動

この回路図中のVCCGNDはそれぞれ別の電源のものとします

ローサイド側のスイッチの駆動電源は1になっています。これが可能な理由は、ローサイド側のスイッチはソース端子が共通、つまりすべて同電位であるためです。

それに対して、ハイサイド側はソース端子がそれぞれ別々に分かれているので、電位はバラバラです。そのため、スイッチごとに絶縁電源が必要というわけです。

なお、絶縁電源はGNDも完全に絶縁されていることが必須なので注意してください。

 

ゲートドライバIC

このような高圧の駆動回路で3相のVVVFを作るとなると電源が大量に必要になって大変です。特に、自作VVVFレベルではかなりのコストがかかって大変です。そこで、絶縁された電源を簡単に作ることができるゲートドライバICというものがあります。電子工作レベルではそのようなICを使うと安く楽に回路を作れるのでおすすめと言えるでしょう。第11回ではゲートドライバICについて説明したいと思います。

 

 

回路編 第6回 半導体スイッチの回路

今までは電子部品のお話ばっかりでしたが、今回からは回路的なお話をしたいと思います。今回は1つの半導体スイッチでだけで作れる回路は限られるので、半導体スイッチを複数組み合わせて回路を作るというお話です。

 

今回の回路図では素子をすべてMOSFET(以後FET)の図記号で記載します。また、次回の半導体スイッチの駆動回路のお話のときの都合上、低圧のラジコンのモータドライバを例に紹介を行っていきます。

 

まずは、単純に半導体スイッチを使ってラジコンのモータを回す回路です。

半導体回路1

この回路は、FETONにするとモータが回って、OFFにするとモータが止まる、FETを使ったON/OFF回路です。ですが、ラジコンのモータドライバとして使うには、問題があります。それは、モータを逆向きに回せないということです。この問題を解決するために、電源とFETを1つづつ増やした回路を考えてみます。

半導体回路2

このようにすることで、上のFETONにする場合と、下のFETONにした場合電池の向きが逆になるのでモータの回転方法が逆になります。これにより、目的が達成できたように思えますが、実はこれも完成形ではありません。この回路だと電池が2つ必要とるためコストや重量が大きくなってしまいます。

そこで1つの電源で+-も両方出せる、つまり電源1つでモータの正転も逆転もできる回路があればベストといえます。ここで、FETを4つ使いの以下のような回路にすることで、これが実現可能になります。
半導体回路3

この回路は一般的にHブリッジと言われる回路です。簡単な回路ですが、一応説明をしておきます。まずはモータを正の方向に回したい時は23FETONにします。

半導体回路4

すると緑の線を引いたところに電流が流れますね。電流の向きは矢印を書いた向きなのでモータの左から右です。 次に逆向きに回したい時は14FETONにします。

半導体回路5

今度も緑の線を引いた通りに電流が流れるので、今回はモータの右から左に電流が流れますね。このようにすることで1つの電源からモータを正回転と逆回転をさせることができます。

単相のVVVFの場合も同じ原理で+向きと-向きの電圧・電流を作り出します。また、34FETONにすることでモータにブレーキをかけることもできます。

半導体回路6

ブレーキモードでは緑の線のような回路が構成されるのでモータがショートした状態となってブレーキがかかります。しかし、これをするためには、半導体スイッチ保護用のダイオードが必須です。その理由は半導体スイッチに逆向きに電圧をかけると破損するからです。(ONにしてる時はじつは逆向きに電流流しても大丈夫って話も聞くけどやったことないのでわからないです…)

Hブリッジの回路ではブレーキ時はもちろん、開放状態にしたときにもモータから逆起電流が発生するので、FETに逆向きの電圧がかかってしまいます。すると、何も保護していないFETFETの場合寄生ダイオードがあるので厳密には保護されている)は故障してしまいます。そこで、FETと逆方向にダイオードを追加することで、逆向きの電圧・電流をダイオードに流し、FETを保護します。

 半導体回路7

先ほどのHブリッジにダイオードを追加するとこのようになります。このようにすると、モータのブレーキをしたときなどにFETに逆向きの電圧がかかることはなくなります

 

最後に3相のVVVFの回路図を示します。

半導体回路8

 この回路は、Hブリッジにアーム(上下のFETの組)1つ追加したものとなっています。そのほかは特にHブリッジと差はないと言えます。


回路編 第5回 半導体スイッチ

VVVFの作り方第5回は半導体スイッチです。第4回まで半導体スイッチよりもさらに基礎的なお話をしてきましたが、第5回になってやっとVVVFの根幹部分である半導体スイッチのお話ができるようになりました。(長かった…)鉄道でVVVFと言えばGTOサイリスタとかIGBTとか聞いたことがあると思います。このようにVVVFの種類のように言われるくらい重要な素子というわけです。この章を読めば、なぜ素子の種類によって音が違うのかということやVVVFはなぜメッシュ状のケースに入っているのかということがわかると思います。

 

種類

トランジスタ

正式にはバイポーラトランジスタと言います。トランジスタというと意味的には後のMOSFETなども含んでしまいますが、単にトランジスタというとバイポーラトランジスタのことを指すことが多いです。

アナログ回路では電流を増幅させるために用いる部品ですが、デジタル回路では電流を入り切りするためのスイッチとして使います。また、大電流を扱うことができるトランジスタは特にパワートランジスタと呼ばれています

MOSFETに比べると高耐圧で大電流に耐えることができますが、スイッチの速度が遅いのが特徴です。

また、コレクタ電流(主回路電流)はゲート電流で制御するのでトランジスタの制御回路もある程度の大電流に耐える回路が必要になります。

 

MOSFET

あくまでトランジスタの一種ではありますが、バイポーラトランジスタが電流制御であるのに対してMOSFETは電圧制御でスイッチをします。なので、制御回路には理論的には電流は流れません。ただし、電流が流れないというのはあくまで理論上の話で、実際にはゲート部にコンデンサの要素を持っているため電流は流れてしまいます

また、トランジスタに比べて高速にスイッチができますが構造的に耐圧を上げるとオン抵抗が増加し、発熱の関係で耐電流が大幅に低下するという特徴がありますが、近年は技術の進歩でSicと呼ばれる炭化ケイ素で作られたMOSFETが電車のVVVFでも使われるようになりました。

 

IGBT

トランジスタの高耐圧大電流特性とMOSFETの高速スイッチ性と電圧制御を組み合わせ高耐圧耐電流に耐え、高速スイッチで電圧制御にした部品スイッチ速度はMOSFETより遅くなりますが、高耐圧で大電流に耐えます構造的にはゲート部がMOSFETのトランジスタです。

 

サイリスタ

昔は鉄道分野でもよく使われていた素子です。昔の交流電車で使われていたほかVVVFでも使われていましたが、近年はあまり使われなくなった素子です。

上の3つに比べて高耐圧で大電流に耐えるという特性がありますが、スイッチ速度が遅い他、通常構造のサイリスタでは一度ONにすると何かしらの方法でメイン回路に流れる電流を切らない限り電流が流れ続けてしまうという問題があります。交流回路では電流の波が0になるタイミングがあるので問題ないのですが、直流回路では都合が非常に悪いです。これを改良したものにGTOサイリスタと呼ばれるものがあり、少し前の鉄道車両のVVVFでは非常によく使われていました。GTOサイリスタはメイン回路の電流を切らなくても、制御端子から電流を引き抜くことでメイン回路の電流を切ることができます。なお、電子回路レベルだけでなく、近年は鉄道車両分野でも使われなくなったのでここでの紹介だけにしておきます。

 

図記号と端子

ここで、トランジスタ、MOSFETIGBTの図記号とそれぞれの端子示します。端子名を出さないと以後の説明が大変なのでそれぞれの端子の機能を知っておいてください。


スイッチ図記号

各端子の機能

トランジスタ

B:ベース npn型ではこの端子に電流を流し込み、pnp型では電流を引き出すことでコレクタ,エミッタ間の電流を制御する

C:コレクタ npn型では電流が流れ込む端子で pnp型では電流が流れ出す端子で、ベースに流した電流のhfe倍の電流が流れる

E:エミッタ npn型では電流が流れ出す端子でpnp型では電流が流れ込む端子で、コレクタとベースに流れる電流の和の電流が流れる。 

 

MOSFET

G:ゲート ソース端子との間の電圧によりドレインソース間の電流を制御する端子Nチャンネルではソースより高い電圧でドレインソース間が通電しPチャンネルではソースより低い電圧を加えることでソースドレイン間が通電する

S:ソース Nチャンネルでは電流が流れ出す端子でPチャンネルでは電流が流れ込む端子ゲートとこの端子の間の電圧で駆動するMOSFETの特性上MOSFETを駆動する基準となる電圧を取る端子である。

D:ドレイン Nチャンネルでは電流が流れ込む端子でPチャンネルでは電流が流れ出す端子。

 

IGBT

G:ゲート エミッタとこの端子との間の電圧でコレクタとエミッタ間に流れる電流を制御する端子

E:エミッタ 電流が流れ出す端子で、ゲートとこの端子との間の電圧で駆動するIGBTの特性上、IGBTを駆動する基準となる電圧を取る端子でもある。

C:コレクタ 電流が流れ込む端子

 

トランジスタとMOSFETではnpnpnp型、NチャンネルPチャンネルとありますが基本的にVVVFなどのパワー回路で使われることが多いのはnpn型やNチャンネルです。理由としては素子自体の性能が良いということや、ベース・ゲートに電流や電圧をかけるとメイン電流が流れるのでわかりやすいといったことがあります。なお、電子回路レベルの電流が少ない場合でもnpn型・Nチャンネルが使われることが多いです。しかし、パワー回路ではベース・ゲート駆動用の電源が用意できないなどの都合でpnp型やPチャンネルを使う場合もあります。詳細は次回とします。

 


 

半導体スイッチの用途

半導体スイッチはその名の通りスイッチをするための部品ですので、電気指令でスイッチをオンオフする回路で使われます。LEDを点滅する回路であったり、モータを回転させる回路であったりスイッチをする必要のある個所では様々な箇所で使われますね。

 

半導体スイッチの比較

それぞれの半導体スイッチの簡単な性能の比較をしたいと思います。性能的に大なり小なりをつけてますが、多少の前後はあるかなあと思います。

スイッチング速度

MOSFET>IGBT>トランジスタ>サイリスタ

スイッチできる速度の差はこのような感じになっています。電車のVVVFでもパワートランジスタを使った車両(2070番台とか)はかなり低音が流れるのに、IGBTを使ったVVVFは比較的高い周波数が聞けますね。さらにSic-MOSFETの車両(323系など)はもっと高い音が聞こえてきますね。このことからも直感的にわかると思います。まあ、GTOサイリスタはパワートランジスタに近い感じの音が聞こえてきますので、スイッチング速度は遅いってことがわかります。

 

耐電力(耐電圧・耐電流)

サイリスタ>IGBT>トランジスタ>MOSFET

イメージ的には古い車両にあるトランジスタのほうが耐電流が高そうですが、少なくとも近年の世界ではIGBTのほうが性能高い模様です。電車のVVVFで新しい世代のほうが性能が低くなるのは、半導体技術が進歩して性能が相対的に低い素子でも電車を走らせられるようになったというのが大きいです。

 

半導体スイッチでの損失

ダイオードの回でもありましたが、半導体スイッチにも損失というのもが発生します。ダイオードでは計算可能な損失は順方向の電圧降下と順方向の電流の積の損失だけでしたが、半導体スイッチでは半導体を電流が通るうえで発生する損失のほかに、スイッチのON/OFF時にも損失が発生してしまいます。損失はそれぞれ別途で計算をしてから足し合わせることで求めることができますので、今回はそれぞれ別々に考えたいと思います。

半導体を電流が通るときの損失

わざわざ、題名をこんなに長く書いたのには理由があります。それは半導体を電流が通るときに発生する損失の発生原理がトランジスタ・IGBTMOSFETで違うからです。

トランジスタ・IGBTでは半導体に流れる電流によらずほぼ一定の電圧が半導体で消費されます。これはダイオードと同じで順方向電圧というものです。順方向電圧と順方向の電流の積が損失となるわけです。

これに対してMOSFETでは半導体に電流によらずほぼ一定の抵抗が発生します。これをオン抵抗と言います。つまり、オン抵抗と電流の2乗との積で損失が発生します。

トランジスタとIGBTでは流れる電流に比例して発熱量が増えるのに対して、MOSFETでは流れる電流の2乗に比例して損失が発生します。損失の増え方をざっと簡単なグラフで見てみましょう。

比較1

このグラフでは横軸が電流で、縦軸が損失です。つまり、電流が少ない状態ではMOSFETは損失が少ないですが、電流が増えると圧倒的に損失が増えるということです。

しかし、実際にトランジスタ・IGBTMOSFETでどちらの方が損失が少ないかというと、基本的には電圧が低い回路ではMOSFETの方が損失が少なく電圧が高い回路ではトランジスタ・IGBTの方が損失が小さくなります。理由は、MOSFETは構造的に耐圧を高くすると半導体の厚みが増しオン抵抗が高くなってしまうからです。

 

比較

実際に秋月で売られている部品同士で比較をしてみます。条件は価格と耐圧が近いことにします。

耐圧が50V程度の場合

トランジスタを2SC1061C(耐圧50V  35 順方向電圧1.0V)MOSFET2SK4017(耐圧60V 30 オン抵抗0.07Ω)として比べてみます。条件的にはFETの方が悪いです。

比較2

MOSFETの方が条件が悪いにもかかわらずMOSFETの許容電流の範囲(トランジスタの許容範囲超えてるのは無視)では圧倒的にMOSFETの方が発熱が少ないことがわかります。つまり、低圧で低電流な場合ではMOSFETは圧倒的に有利なわけです。

 

耐圧50Vで大電流の場合

トランジスタ系の素子で低耐圧かつ大電流の素子が秋月では売られていません。そのため、トランジスタ系のみ耐圧が高いもので比べてみます。IGBTRJH60F6DPK(耐圧 600V 300円 耐電流85A 順方向電圧1.75V) MOSFETTK100E06N1(耐圧60V 160円 耐電流100A オン抵抗1.9mΩ)で比べてみます。

比較3

トランジスタ系の素子は耐圧を無視しても最も電流を流すことができる素子を選びました。耐電流を下げるともう少し順方向電圧が低いものもありますがせいぜい2割程度下がるだけです。この場合でもMOSFETは発熱量がトランジスタに比べて圧倒的に小さいことは明らかです。つまり、低圧の回路では圧倒的にMOSFETが有利なことがわかります。

 

耐圧が600Vの場合

IGBTGT50JR22(耐圧600V 320円 順方向電圧1.55V) MOSFETTK31J60W(耐圧600V 320円 オン抵抗0.073Ω)で比べてみます。最初の50Vで部品をそろえた時と条件を合わすためにまずは5A以下のグラフを見てみましょう。

比較4

耐圧が高くなったのに先ほどと同じようなグラフになりました。電流が少ないと、この程度の耐圧でもMOSFETが勝ってしまうのです。続いてMOSFETの耐電流である30Aまで電流を増やした場合を見てみましょう。
比較5

 20Aを超えたあたりでやっとMOSFETの発熱がIGBTの発熱を上回りました。このように電圧が高くてかなりの大電流を扱う場合(大電力)IGBTが有利なのです。

 

以上より低圧の回路ではMOSFETを使う方が、圧倒的に発熱が少なく高圧大電流の回路ではトランジスタ系の素子の方が発熱が少ないことが明らかになると思います。つまり、鉄道ぐらいの大きさになればMOSFETよりIGBTの方が圧倒的に発熱が少なくなるのでIGBTがよく使われてきたというわけです。

これより、電圧も比較的低くて電流も少ない電子工作レベルではMOSFETが適切な素子と言えますね。

 

スイッチング損失

スイッチング損失はスイッチをON/OFFするときに際に発生する損失のことです。先ほどの順方向電圧と電流の積による損失やオン抵抗による電流の2乗の損失に比べると小さなものにはなりますが、スイッチ速度が比較的遅いトランジスタやIGBTで高い周波数でのスイッチングを行うと、損失は大きなものになります

なお、ここでのスイッチングの周波数というのは出力正弦波の周波数ではなく正弦波を生成するためのPWMの周波数のことです。

スイッチング損失というのがなぜ発生する理由を説明します。半導体スイッチがON/OFFをするときは瞬間的にON/OFFするのではなく少し時間をかけてON/OFFの動作をします。その様子を表したグラフを見てみます。
オン時間

Iと書かれている線がON時に半導体スイッチに流れる電流を示していて、Vが半導体スイッチにかかる電圧を示しています。そして、電流が10%から90%になる間の時間をtr(立ち上がり時間)としています。

このグラフより、半導体スイッチにある程度の電圧がかかっているのに電流が流れているタイミングがあることがわかります。スイッチング損失はこの時間に発生します

また、半導体スイッチをOFFにするときにも同じように損失が発生します。

 

スイッチング損失の損失の計算は以下の式になります。

Ion:オン時に半導体スイッチに流れる電流[A]

Voff:オフ時に半導体スイッチにかかる電圧[V]

tr:半導体スイッチの立ち上がり時間[s]

tf:半導体スイッチの立ち下り時間[s]

f:スイッチング周波数

P:損失[W]

スイッチ1

この式は、1回あたりの発熱量[J]に周波数をかけて1秒当たりの発熱[W]にしたものです。

半導体スイッチの立ち上がり立ち下がり時間が比較的遅い素子では損失がスイッチング周波数が高いと無視できない程度になります。

 

トランジスタ、IGBTMOSFETのスイッチング損失を確認します。条件と使用する素子は以下の通りです。

オフ時の電圧:100[V]

オン時の電流:5[A]

スイッチング周波数:1[kHz]

トランジスタ:2SC2837(立ち上がり時間0.2μs立ち下がり時間 1.1μs)                 

IGBT:RJH60F6DPK(立ち上がり時間80ns立ち下がり時間 74ns) 

MOSFET:2SK2698(立ち上がり時間50ns立ち下がり時間 65ns)     

スイッチ2

上からトランジスタ、IGBTMOSFETの順になっています。トランジスタの立ち上がり立ち下がり時間が長いので圧倒的に損失が大きい結果となりました。

スイッチング損失は、半導体スイッチを電流が通るときに発生する損失に比べるとはるかに小さいものとなっています。今回のように電圧が比較的低く、スイッチング速度もそこまで大きくない場合は損失が小さいですが、電圧が高くて高速スイッチングを行う場合では無視できない程度の損失にもなります。

電車位の規模だと、この損失も大きくなるので、立ち上がり立ち下がり時間が長いパワートランジスタやサイリスタ系の素子で高速なスイッチングを行うと損失はとんでもなく大きいものになり、非効率と言えます。パワートランジスタやGTOサイリスタのインバーター音が低いのもこれも理由の1つです。

 

半導体スイッチの選定方法

今回のお話で最後のお話として、半導体スイッチの選び方そして取り付ける放熱板の選び方のお話をします。

まず、半導体スイッチを選ぶにあたってトランジスタを使うか、IGBTを使うか、MOSFETを使うかの3択があります。基本的には100~200Vを超えるような比較的高い電圧で10Aを超えるような大電流を流す場合はIGBTを選択し、これ以外の場合はMOSFETを選ぶのが無難です。トランジスタはIGBTMOSFETで最適な部品が見当たらない場合に使うとよいでしょう。

 

型番の選び方

単純にデータシートに書かれている耐電流と耐電圧を見て決めるのはいけません。理由は半導体スイッチには損失がありその損失が熱として放出され半導体の許容温度を超えるからです。

 

損失による半導体の温度は以下のような式で表せます。

T:温度[]

P:発熱量[W]

R:熱抵抗[/W]

T = P×R

単位から考えると簡単だと思います。発熱量はもちろん半導体スイッチに電流が通るときの損失とスイッチング損失を足し合わせたものです。

 

例として、MOSFETTK100E06N1にデータシートに書かれている最大電圧印加時に最大電流を流した場合の温度を計算してみます。

オン抵抗による損失

100^2*0.0019=19[W]

1kHzでのスイッチング損失は

(1/6) *100*60*(67+64)*(10^-9)*1000=0.131[W]

足し合わせて

19.131[W]

となります。そして、放熱板を付けない場合の熱抵抗は88.3[/W]なので、温度は

19.131*88.3 = 1689.2673[]

となります。温度的に考えると鉄が溶ける温度よりもさらに上の温度です。もちろんこんな温度に半導体が耐えるわけがありません。つまり、データシートに書かれている最大電流はあくまで相当な放熱対策をした場合の値というわけです。

型番を選定するときは、発熱量と放熱性を考えて部品制定をする必要があります。

 

選定の方法は以下の2つの方法があります。

・耐電流に対して使用する半導体を選び、発熱量に合わせた放熱板を選定する

・放熱板のサイズをあらかじめ決めておき、耐電流より最大のオン抵抗か順方向電圧降下を求め、それを満たす半導体を選ぶ

 

まずは、前者の選び方の計算方法です。まずは発熱量を計算します。

Ion:オン時に半導体スイッチに流れる電流[A]

Voff:オフ時に半導体スイッチにかかる電圧[V]

Ron:MOSFETのオン抵抗[Ω]

VCE:トランジスタ・IGBTの順方向電圧[V]

tr:半導体スイッチの立ち上がり時間[s]

tf:半導体スイッチの立ち下り時間[s]

f:スイッチング周波数

P:損失[W]

 

18/01/24追記 MOSFETのON抵抗は温度が最大の時のオン抵抗で計算を行う必要があります。温度が最大の時のオン抵抗はデータシートのグラフを確認してください

スイッチ3

このように発熱を求めることができます。そして、放熱板を選定する上で必要なパラメータである熱抵抗を計算します

Tair:外気温[]

Tj:半導体の許容温度[]

P:損失[W]

R:熱抵抗[/W]

スイッチ4

こちらも単位から考えると簡単だと思います。

これで熱抵抗が求まりましたが、この値の熱抵抗を持つ放熱板を取り付けてはいけません。理由は半導体と放熱板の間にも熱抵抗が発生するからです。その熱抵抗は半導体内部と半導体のケースの間、そして半導体のケースと放熱板の間です。

半導体の内部とケースの間の熱抵抗はデータシートに書かれていますのでそれを利用できます。

そしてケースと放熱板の間の熱抵抗は間に挟む絶縁シートなどにより異なります。その計算方法は以下の通りです。

λ:熱伝導率[W/m*K]  Kは温度差なのでは℃として計算可

t:放熱シートの厚さ[m]

A:放熱シートの面積[m]

キャプチャ

最終的に放熱板を選ぶときは、先ほど求めた熱抵抗から半導体の内部とケースの熱抵抗とケースと放熱板の間の熱抵抗を引いた値以下の熱抵抗をもつ放熱板を使わなければなりません。

例として、先ほど100Aを流すと鉄が溶ける温度になったTK100E06N1に取り付ける放熱板の熱抵抗を計算します。

発熱量は19.131[W]で半導体の許容温度は150[]で外気温を35[]とすると

R= (150-35)/19.131 = 6.011[/W]

となります。

半導体の内部とケースの熱抵抗は0.49[/W]TO-220の絶縁シートの熱抵抗は以下のように計算します

λ:熱伝導率[W/m*K] 

t:放熱シートの厚さ[m]

A:放熱シートの面積[m]

スイッチ5

これより放熱板の熱抵抗は以下の値を下回る必要があります。

Rheatsink = 6.011 – 0.49 -1.087 = 4.434 [/W]

実はこの値の下回る放熱板は秋月では売られていないです。つまり、かなり大型のヒートシンクが必要というわけです。

ヒートシンクが見つからない場合は最初に戻って、別の半導体スイッチを探して再度計算します

 

放熱板の大きさから大体のオン抵抗か順方向電圧の目安を算出して、半導体スイッチを探す方法

放熱板を選ぶと熱抵抗がわかります。その熱抵抗に、半導体の内部から放熱板までの熱抵抗として仮に2[/W]を足し合わせます。続いて、半導体の許容温度ですが大体150[]程度のものが比較的多いので、許容温度150[]、外気温は35[]と仮定して計算をします。スイッチング損失については比較的小さい値ですので省略して考えると、以下のように最大発熱量が求まります。記号は今までと同じなので定義は省略します。

スイッチ6

許容発熱量の概算が求まれば必要な順方向電圧かオン抵抗は簡単に求まります。
MOSFET
17/12/24 式訂正 (入力ミスで^2のところをROOTしていました)

ここで求めた順方向電圧、オン抵抗と最大順方向電流そして耐圧を満たす素子を選びます。そして、選んだ素子のデータシートから各種パラメータを正式に導き出し、実際の発熱を計算します。この温度が許容温度を下回っていれば選んだ素子が問題なく使用可能というわけです。

 

安全率

安全率とは実際に使用する際に必要な性能に対して設計段階で持たせた余裕の率です。電子工作レベルでの半導体スイッチの選定では最初のオン時に流れる電流の段階で実際に流す電流の1.5倍から2倍程度の電流まで流しても大丈夫なように設計すれば問題ありません。

今までの式のIonは実際に流す電流の1.5倍から2倍程度の電流値として計算をすればよいでしょう。

回路編 第4回 ダイオード

VVVFの作り方第4回はダイオードについてです。

前回のコンデンサとインダクタについてはアナログ回路的に考えると非常に難しいものでしたが今回以降はまた別のベクトルでちょっとややこしい話にはなります。ただ、今回の難しいところはVVVFの設計のミソとなる部分なのであまり簡単に説明はするものの、省略はできません。今回の話と次回の半導体スイッチの設計法を読めば電車のVVVFとかチョッパーがなぜ通気性の良さそうな箱に入っているのかってことがわかると思います。

 

 

ダイオードとは

ダイオードって言われて何に使うものか思いつくでしょうか?最近だと省エネ関連で発光ダイオードであるLEDの照明とかが有名なのでなんとなく名前を聞いたことがあるかもしれません。ダイオードを一言で言うと、一方向にしか電気を流さない素子です。しかし、ダイオードの中にはLEDのように光を発してそれ自体が電力を消費させるのが目的のものもあれば交流を直流に変換する回路で使う場合もあり用途は1つではありません。ただ、基本的に知っておく必要があるのは一方向にしか電流を流さないということだけかなと思います。

 

種類

整流用ダイオード

P_20170611_141340

ごくごく普通のダイオードです。電子回路レベルから整流回路そして半導体スイッチなどの逆電圧保護など多くの個所に使います。

 

ファストリカバリダイオード

整流ダイオードでは電流が流れていた時に逆向きに電流を流そうとすると、ごくわずかな時間は逆向きに電流が流れてしまいます。(この流れる時間を回復時間と言う)この現象を小さくしたのがファストリカバリダイオードです。基本的には比較的高速なスイッチングをする回路に使うかなと思います。

 

ショットキーバリアダイオード

ショットキー現象を用いたダイオードで順方向の電圧降下が少なくてファストリカバリダイオードの回復時間も短いが、逆電流を流そうとすると漏れ電流がほかのダイオードに比べて多く流れてしまうダイオード。他のダイオードよりは効率は良いですが設計上では注意しないといけないと思います。

 

定電圧ダイオード(ツェナーダイオード)

ダイオードの逆方向に一定以上の電圧を加えると逆向きに多くの電流が流れてしまう特性ツェナー降伏)を使ったダイオード。回路を一定以上の電圧にさせないクランピングを行いたいときに使う。パワー回路でサージ保護に使うこともある

 

パワー系の回路ではこの4種類が多く使われています。なお、整流用ダイオードを組み合わせてブリッジダイオードなどもあります

また、電子回路でよく使うダイオードも一部紹介しておきます。

 

定電流ダイオード

ダイオードにかかる電圧によらず一定の電流が流れるダイオード

 

発光ダイオード

P_20170611_144855

その名の通り光を出すためのダイオード。整流目的で使うのではなくあくまで発光素子として使うものである。

 

信号用ダイオード

 整流用ダイオードの小型版で小電流の信号を通すことを目的としている。

 

ダイオードの図記号と方向の読み方

ダイオードの図記号は整流用およびファストリカバリダイオードが左ショットキーバリアダイオードが中左定電圧ダイオードが中右発光ダイオードが右です。他の種類については省略します。後者2つの角度とかは図の作者によって多少の差はあります。

ダイオード図

 

ダイオードの用途

ここでは整流ダイオード(整流用、ファストリカバリ、ショットキーバリア)で組まれる回路についていくつか紹介します。他のダイオードはそれぞれ個別の役割があり、上で紹介した通りです。

整流回路

名前の通りの用途で、交流を直流に変換するための回路です。整流回路にはいろいろな種類がありますが、これについてはまた別の回で詳しく書きたいと思います。

昇圧回路

コンデンサと組み合わせてブートストラップ回路などを構成する部品として使われます。

半導体部品の保護

半導体部品には正規の方向以外の向きに電流を流そうとすると破壊されるものがあります。そのような半導体部品と逆向きにダイオードを入れることで逆電圧がかかるとダイオードに電流が流れて、部品を保護します。

 

ダイオードは単純に用途と言って説明しきれないくらいいろいろなところに使われます。ここで紹介したもの以外の回路でも一定方向しか電流を流さない特性を利用するときに使われるということを知っておいてください。

 

 


 

設計方法

電子回路レベルでのダイオードの設計方法は基本的にデータシートに書いている耐電圧耐電流を守れば問題ありません

しかし、パワー回路ではそれが通用しない場合があります。それは、ダイオードに電流が流れると発生する順方向電圧と流れる電流の積による電力損失で半導体の許容温度を超えるというものです。この現象自体は次回の半導体スイッチでも同じようなことが発生します。また、順方向の電流を突然逆方向に切り替えると一瞬だけ逆向きに電気が流れる(以後はリカバリ特性って書きます)ので、逆方向に流れる電流と発生電圧の積による損失も発生します。後者については基本的に周波数が低い回路では気にする必要はありませんが前者は周波数に関係なく考えないといけません。今回はその計算を簡単にしてみたいと思います。

順方向電圧と電流による発熱は一応以下の式で表すことができます。

ダイオード1

順方向電圧については電流によって変化するので厳密に求めたいならデータシートのグラフを参考にしてもらえればよいですが、データシートには最大電流での順方向電圧が書いてあることが多いで基本的にはそれで計算すればよいです。(安全側に働く設計となる)そして、ここで発生した熱は、基本的には空気中に逃げるわけです。空気に逃げる熱量を数値的に示したのが熱抵抗というパラメータです。式の内容としては1Wの放熱をするために半導体と外気温に何度の温度差が必要かというのを表したもので単位は[/W]です。外気温や半導体の耐える温度を以下のように置いて式を立てます。

ダイオード2

単位から考えると簡単だと思います。そしてこの式と先ほどの発熱量の式を組み合わせると

ダイオード3

となり、変形すると

ダイオード4

となり、データシートのパラメータと外気温から損失込みの許容電流を求められます

外気温は夏を考慮して基本的には35から40℃程度で計算します。また、熱抵抗についてはダイオードに放熱板を取り付けない状態での熱抵抗(放熱先が空気)のほかに放熱板を付けた場合に使うダイオード内部とダイオードのケースの熱抵抗などが書かれています。(書かれていないのも結構ありますが…)

例を示してみます。整流用によく使われている1N4007だと順方向電圧が1.1V 空気に対する熱抵抗が110/W で耐熱温度が150℃ 外気温を35℃とすると

ダイオード5

となります。このように小容量の素子でばデータシートに書いてある通りの電流をほぼ流せます。しかし、同じ計算方法でA電流が流れるダイオードの計算をすると放熱板をつけないとデータシートに書かれている最大電流が全然流せない場合もあるので注意が必要です。

次に、リカバリ特性ですが、計算に必要なパラメータがファストリカバリダイオードでない限り書いていないことが多いので計算は省略します。

ギャラリー
  • KiCad5の使い方 4章 シンボルエディターの使い方
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