モータの鳴らし方byHanDen

電子工作の初心者がモータを演奏したりVVVF音を再現したりする方法を紹介するブログ ホビー向けの電子工作を基礎から書いていきます 記事のミス等のお問い合わせはTwitterにてお願いします。 当ブログを参考に製作をする際は必ず自己責任にて行ってください 当ブログを参考にしたことによる損害等の責任は一切負いません ドメイン取得につきURLを http://vvvf.blog.jp から http://blog.henden.net に変更しました

KiCad編 第1回 KiCadの初期設定

2019/12/25
KiCad5対応の記事を公開しました。
http://blog.handen.net/archives/21338893.html
一旦目次にリンクしますので読みたいページを選択してください。

2018/9/23追記
KiCad5.0移行に伴い以下のやり方ではうまく設定できない場合があります。
筆者の環境ではバージョンアップ後ライブラリ設定ファイルをクリアしても既定でローカルのライブラリを参照する設定になりましたが、環境により既定では以下の説明のように「GitHub」になっていて、以下の方法で変更してもライブラリ名の違い等で動作しない場合があるようです。その場合はいったんすべてのライブラリを削除してから再登録をしてください。

前回まではハードウェアの部品選定についてのお話をしてきましたが、今回からは選定した部品から回路図を作成し、プリント基板のデータを作成するための
CADのお話をしていきたいと思います。

回路図やプリント基板のデータを作成するツールは少し前まではEagleBsch3v+PCBEなどしかありませんでしたが、無料版ではサイズ制限があったり、回路図とプリント基板エディタで連携ができないなど不便な点がありました。しかし近年ではKiCadというフリーでサイズ無制限で回路図作成からプリント基板のデータ出力まで統括してできるツールが登場しました。今回はこのKiCadを使って回路図作成からプリント基板のデータ出力の手順を紹介していきます。

 

ちなみに、KiCadはオープンソースのソフトウェアで部品のデータなどを作ったものをみんなで共有できる機能があるので、部品のデータが非常に豊富であることや、プリント基板のデータを作成したときに3Dで出来上がった基板の雰囲気を見られることで製作のモチベーションを保ちやすいといった特徴があります。

 

まずは、KiCadをインストールする方法を紹介します。

1.KiCadのダウンロード

http://kicad.jp/」にアクセスし、ページ右側の「ダウンロード(本家のミラー)」のところから使用環境に応じたKiCadをダウンロードします。(容量注意700MB以上) 現在こちらのページからはKiCad4.0.7しかダウンロードできません。最新版はhttps://www.kicad.org/からダウンロードしてください。
ダウンロード

使用しているパソコンが32bitOSの場合は上から3つ目のWin 32bit 64bitOSの場合は一番下のWin64bitをダウンロードします。

ここで注意しなければならないことはページ左側の記事(執筆時点では「KiCad4.0.1安定板リリース!」)の中にあるリンクからダウンロードしないことです。記事の方は古いバージョンのリンクが貼られていて、ここからダウンロードすると古いバージョンのKiCadがダウンロードされ、内蔵されている部品データが少ないなど使用時に不便を生じることがあります。

 

2.KiCadのインストール

ダウンロードしたファイルを実行するとインストールウィーザードの画面が表示されます。
インストール1

インストールの画面は英語になっていますが、インストール後は日本語になるので気にせずNextをクリックして次に進みます。
インストール2

次はインストールするコンポーネントの内容を選ぶ画面ですが、オフラインで使用することも考慮してフットプリントライブラリなどを含めてすべてチェックを入れたままNextをクリックして次に進みます。
インストール3

最後は、インストール先の設定ですが、特に理由がない限りそのままでInstallをクリックしてインストールを開始します。ここで設定を変更した場合は、後でライブラリの設定の際の参照先も変更になるので注意してください。

 インストール4

インストールが終わったらFinishをクリックして終了します。部品の3Dデータを作成・編集したいなどがあれば、出てきているチェックボックスにチェックを入れてソフトウェアをインストールできますが、基本的に使うことは少ないと思いますのでここでは省略します。

これでインストールは完了です。

 

次に、初期設定としてKiCadをオフライン環境で使用できるようにする方法を紹介します。KiCadは初期設定でフットプリントというプリント基板を作成するときの部品の形のデータをGitHubという製作物などを共有するシステムに取りに行く設定になっています。そのため、オフラインのパソコンやプロキシが掛かった環境ではフットプリントを参照することができません。この状態では後々問題が発生するのは明らかですので、まずはこの問題を解決したいと思います。

デスクトップのアイコンをクリックしてKiCadを開きます。

 アイコン

KiCadを開くとこのような画面が表示されます
トップ画面

インストール直後の状態では何もできないので、とりあえず↑1の新規プロジェクト作成をクリックして、設計する基板に応じた適当なファイル名を入力したうえで「保存」をクリックします。
初期1

すると、空のディレクトリ内にファイルを作成することを勧めるメッセージが出てくるので「はい」をクリックします。こうすることで後々の設計段階などでファイルの管理がしやすくなります。

その後このような画面が表示されます。
初期2
1は回路図を描く回路図エディタ (Eeschema)、↑2は回路図の部品を作成するコンポーネントライブラリエディタ、↑3はプリント基板のデータを作成するプリント基板エディタ(Pcbnew)、↑4はプリント基板のフォットプリントを作成するフットプリントエディタです。ほかにも機能がありますが、プリント基板を作成するうえでは必須ではありません。使うとすれば電卓のアイコンの回路の計算を行うPCB calculator ぐらいかなと思います。

機能の紹介はこの程度に置いておいて、初期設定の続きです。
4のフォットプリントエディターを起動します。


初期3

このような画面が表示されるので、↑の設定メニューを開きます。

初期4

設定メニュー内の←フットプリントライブラリの管理をクリックします。

初期5

1で示したプラグインの種類が初期設定では←2のようにGithubになっているので、←1のようにKiCadにすべて変更します。

初期6

Githubのところをクリックすれば選択肢が出てくるのでその中から選びます。

変更箇所が大量なので面倒な場合は←3の場所の設定ファイルをサクラエディタ等で開き「Github」を「KiCad」に置換して保存すれば楽に変更できると思います。(大文字小文字の区別が必要)

次に設定メニューの環境変数の設定を開きます。

 初期7
初期9
矢印で示した「KIGITHUB」のパスを「https://github.com/KiCad」から「C:\Program Files\KiCad\share\kicad\modules」に変更します。図のようになっていればOKです。その後「OK」をクリックして設定を終わります。

 最後にメニューバーの虫眼鏡のアイコンのフットプリントビュワーを開く(図中↑)をクリックして、フットプリントが正しく開けることを確認します。

初期9
初期10

以上でオフライン環境でのKiCadのフットプリントを開けるようにする設定が完了です。あとは回路図を描いて、プリント基板の設計を始めるだけです。

回路編 第10回 整流回路

今まではVVVFの要の部分である半導体スイッチの関連のお話をしてきましたが、今回は自作VVVFの電源となる整流回路のお話をしたいと思います。

 

整流回路交流を直流に変換するための回路です。搭載する部品は基本的にはダイオードとコンデンサとなるので、回路としてはシンプルです。ダイオードの代わりに半導体スイッチを使い、入力の波形に応じてON/OFF制御することも可能ですが、主にVVVFを逆動作させる場合や、大電力の場合で使われ、電子回路レベルでは基本的に使わないので省略します。今回は基本的な整流回路の種類について紹介して、それに取り付けるコンデンサの容量についても紹介します。

 

半波整流回路

整流回路の中で最も簡単な回路です。初めに、コンデンサをつけていない場合の回路図と出力の波形を見てみましょう。

半波整流回路図

右の+-が中に入った〇が交流電源を表しています。(本来の記号は〇の中に~ですがご了承ください)そして抵抗器が負荷を示しています。すなわち、抵抗器の両端が出力電圧というわけです。

入力波形と出力波形を見ます。

半波整流

黒線が入力の正弦波の電圧波形、青線が出力の電圧が波形です。完全な理論値での波形の場合出力波形で電圧出力時は入力波形の0Vより上の部分と全く同じになりますが、今回はシミュレータにかけたため少しなまった波形になっています。

この回路では入力の電源の半分しか出力されていないため、無駄が多いうえに、出力が0Vの間が長く続くため、一定の電圧出力にするためには大型のコンデンサが必要となります。そのため、この回路は小型省電力の場合に使われます。

一般的に整流回路としてよく使われるのが次に紹介するダイオードブリッジを使った方法です。

 

全波整流

 全波整流はダイオードブリッジを使うことにより交流の波形すべてを出力可能にしたものです。回路図は以下のようになります

全波整流回路

回路図のようにダイオードブリッジの中間点から交流を入力すれば、ダイオードのカソードから+ アノードから-の直流が出てきます。

 全波整流

入出力の波形はこのような感じになります。短波整流では交流波形の正の部分しか出力されなかったのに対して全波整流では負の部分も正の向きに変換されて出力されます。このため電力を効率よく使用できます。また、電圧が出力されない期間がほとんどないのでコンデンサの容量を減らすこともできます

 

整流回路のコンデンサ

次に半波整流と全波整流でコンデンサを搭載した場合の波形を見てみます。

今回は半波整流・全波整流ともに470uFのコンデンサを取り付けた場合を仮定して波形を出しました。なお、負荷抵抗は100Ω、入力電圧の実効値は100Vとします。

半波回路C
全波C回路

コンデンサは図のように負荷に並列に接続しています。

この回路の出力波形は以下のようになります。


半波C
全波C

この波形からも同じ容量のコンデンサを接続した場合でも全波整流の方が、明らかに電圧変動が少ないことがわかります。

 

コンデンサの容量計算

次にコンデンサの容量の目安の計算を紹介します。

コンデンサの電圧と電流の関係は以下の式で表すことができます。
式1

の式を変形してコンデンサ容量の式にします。

式2

ここで電圧変動「dV」をリップル、つまり出力波形の許容電圧変動とします。また、電圧変動の時間「dt」を先ほどの整流波形の最大値の間隔、つまり60Hzの交流の場合半波整流で1/60[s] 全波整流で1/120[s]と考えます。これによって、コンデンサ容量の計算ができます。

 

倍電圧整流

VVVFを作る場合基本的にモータは3200Vのものが多いです。しかし、家庭用の電源は100Vであるため、電圧を上げる必要がります。トランスを使う方法もありますが、それを使わずに整流回路で電圧を倍できる倍電圧整流というものがあります。倍電圧整流の回路図は以下のようになっています。

倍電圧回路

この回路の考え方としては半波整流を2つ用意し、そのうち1つだけ向きを逆にして直列につないだ形といえるでしょう。その結果、正の向きの波で上側のコンデンサを充電し、負の向きの波で下側のコンデンサを充電されます。そしてこの2つのコンデンサが直列につながれているため倍の電圧が出力されます。次に出力波形を見ます。

倍電圧

初期の波形の形が少しややこしい波形となっていますが、0Vを基準にして入力電圧の倍程度の電圧が出力されていることがわかると思います。

全波整流や半波整流では出力電圧が約140Vでしたが倍電圧整流ではその倍の280Vが出力されていないことが波形からわかります。この理由は、倍電圧整流の2つのコンデンサが充電されるタイミングが半波分ずれるためです。そのため、充電された側のコンデンサがある程度放電されたときに、もう片方のコンデンサが充電されます。結果として最大電圧が280Vとなりません。なお、コンデンサの容量を大きくすることで改善が可能です。

ここで先ほどの倍電圧整流のコンデンサ容量を4倍にした波形を見てみます。
倍電圧改善

これによって出力の最低電圧が全波整流の倍の電圧となり最大電圧もほぼ280Vとなりました。

PS.起動時に入力電圧程度の出力が出ているのは、初回は上の回路図の下側のコンデンサが充電されていないためです。

 

倍電圧整流のコンデンサの容量計算

コンデンサの容量の計算式は全波半波整流と同じ数式を使います。なお、コンデンサが直列に接続されているので実際に使うコンデンサは計算結果の倍の容量のものを使わなければなりません。これらを考慮して計算すると、全波整流と電圧変動を同じに抑えると、電圧変動の時間が2倍・直列による容量半減により、全波整流の4倍の容量のコンデンサが必要といえます。

 

コンデンサの容量計算の例

60Hzの交流を入力し、1Aの電流を流し、電圧変動を10Vに抑えるとします。すると以下の式で計算できます。

全波整流
式3
倍電圧整流

式4

回路編 第9回 トランジスタ

いままで半導体スイッチとしてMOSFETIGBTのお話をしてきましたが今回はもう1つの半導体スイッチトランジスタについてのお話をしたいと思います。

 

トランジスタはVVVFなどのデジタル回路ではスイッチとして使用されている部品ですがアナログ回路では電流増幅器などとして使用されます。トランジスタが関係するアナログ回路でメジャーなものと言えばオーディオ回路やラジオなどがありますが今回はここがメインのお話ではないので省略します。

近年ではパワー素子としてトランジスタが使われることは少なくなりました。しかし、今でも電子回路内でのスイッチとして使われることは多少あります。そのため、簡単ではありますがトランジスタの使い方の紹介をしたいと思います。

半導体スイッチの回でもお話したようにトランジスタというのは電流でON/OFFを切り替える電流制御の素子です。ベースに流した電流のhFE倍の電流がコレクタに流れます。  

 

トランジスタの周辺部品の選定

ここで初めにトランジスタを単純にスイッチとして使う場合の回路図を示してみます。

1

ここだけだとMOSFETIGBTの駆動回路とほぼ同じように見えます。しかし、ベース抵抗の求め方が今までとは全然違います。トランジスタのベース抵抗は以下のような手順で求めます。

2

コレクタに流れる電流は設計上で決めておき、その電流値と増幅率からベースに流す必要のある電流が求まります。しかしこの値は最低限度の値であり、このベース電流値ではトランジスタでコレクタに流れる電流を制御することになり、スイッチとして使用するのには適切とは言えません。また、部品の誤差などで場合によってはコレクタに流せる電流が設計値より小さくなるほか、トランジスタでの損失も大きくなる場合があります。そのため、ベースには少なくとも先ほど計算した電流の倍の電流を流すべきと言えます。これより許容できる最大の抵抗値は以下の式で求まります。

 3

実際に抵抗器を選定する際は、これより低い値の抵抗値を使います。なお、スイッチとして使う場合トランジスタを飽和領域で使うのが最適なので、前段回路が許容できるなら少し多めにベース電流を流す、つまりベース抵抗の値を下げると良いでしょう。

 

次にプルダウン抵抗ですが、こちらはプルダウン抵抗なので10kΩ程度を取り付ければ大丈夫です。また、トランジスタの場合はベースが電流駆動という仕様上ベースがハイインピーダンスになることがないのでプルダウン抵抗を省略しても大丈夫です。あくまで保護回路です。

 

増幅率の確保

次は、増幅率hFEの大きさについてのお話です。増幅率が高ければ少ない電流でスイッチを駆動できます。しかし、基本的に容量の大きな素子では一般的にhFEが低いという問題点があります。増幅率の目安としては、小信号用のトランジスタは増幅率が百から数百程度あり、大電流に耐える大型のトランジスタは百に満たない素子が多いです。そのため、大電流に対応する半導体スイッチを動かすためにはベース電流も多く必要になります。

そこで増幅率を稼ぐためにトランジスタの前段にさらにトランジスタを接続するダーリントン接続と呼ばれる回路を組むことがあります。ダーリントン接続の回路図は以下のようになります。

4

回路としては、トランジスタのベースにトランジスタを付けた単純な回路です。これによって増幅率の近似はTr1の増幅率とTr2の増幅率を掛け合わせたものになります。

なお、厳密な増幅率は以下のように求めます。

 5

厳密な計算としてはこのような計算ができますがややこしさに対して計算結果の差がそこまで大きくないです。例としてTr1の増幅率が100 Tr2の増幅率が20として計算をしてみます。単純な掛け算、正式な計算の順です。
6

しかし、このように複雑な計算を行い算出した厳密解と近似の計算の誤差はあまり大きなものではありません。そのため、増幅率の重要度が低い場合は近似式で計算しても問題ないでしょう。

 

近似と厳密解の計算例

例としてTr1の増幅率が100 Tr2の増幅率が20として計算をします。単純な掛け算、正式な計算の順です。
キャプチャ


計算結果としては5%程度の誤差がでましたが、実際のパワー回路の設計では素子の増幅率のばらつきの方が大幅に大きいので特に気にする必要はありません。

 

今回説明したダーリントン接続のトランジスタを1つのモジュールにしたものもあり、それをダーリントントランジスタと言います。このダーリントントランジスタは増幅率が高く耐電流も比較的大きいという特徴があるのでこのトランジスタが使える範囲ではダーリントントランジスタを使えば楽に回路を組むことができます。

トランジスタで大電流の回路を組む場合はこのようにダーリントン接続を使用して順次電流値を高めて大電流をスイッチング可能にします。なお、MOSFETIGBTと違い前段回路をトーテムポール回路にしなくてもよいのがメリットともいえるかもしれません。

 

トランジスタの選定方法

基本的にはIGBTに準じた計算方法で選びます。耐圧と耐電流が実使用する電圧・電流を満たしていることはもちろん発熱に対する損失も計算する必要があります。基本的に損失は順方向電圧降下と電流の積とスイッチング損失なのでIGBTの損失計算と同じように計算できます。なお、スイッチング速度が遅いのでスイッチング損失はIGBTに比べると非常に大きな値となります。

 

おまけ

アナログ回路でのトランジスタは電流増幅器として使われますので、目的の電流増幅率に応じてベース抵抗等を求める必要があります。また、トランジスタの増幅率のばらつきによる回路の性能差抑えるために、半固定抵抗を用いる場合も多いです。

トランジスタには今回紹介したエミッタをGNDに接続するエミッタ接地のほかに、コレクタを接地するコレクタ接地やベースを接地するベース接地などいろいろな使い方があります。

回路編 第8回 ゲートドライバ

ゲートドライバICの使い方を記事を新たに書き直しました。
http://vvvf.blog.jp/archives/6572197.html

こちらの方が図が多くわかりやすいかなと思います。

ゲートドライバICの機能

ゲートドライバICは名前の通りMOSFTIGBTのゲートを駆動するためのICです。内部の出力部には前回紹介したトーテムポール回路が内蔵されているほか、デッドタイムの自動挿入機能(一部非対応のものあり)ゲート駆動電圧の生成機能です。つまり、このICがあれば1つのゲート駆動電源ですべてのスイッチのゲート駆動ができてなおかつ高価なトーテンポール回路を内蔵したフォトカプラも不要というわけです。

 

ブートストラップ昇圧の仕組み

ゲート駆動の昇圧機能の仕組みと注意点の紹介をします。ゲートドライバICに内蔵されている昇圧機能は、ブートストラップと呼ばれるチャージポンプの一種です。

原理は、コンデンサに電荷を貯めてそのコンデンサに貯めた電荷を電源と直列に繋ぎ変えることで電圧を上げます。ゲートドライバICの場合はMOSFETがオフの時にコンデンサに電荷を貯め(充電)て、ONの時には充電されたコンデンサをゲートソース間に接続し、ゲート駆動電源にします。

これにより、1つのゲート駆動電源ですべての半導体スイッチを駆動できます。しかし、この原理上1つ問題があります、それはコンデンサに充電する時間を設けないとゲート駆動ができないということです。つまり、ハイサイドのMOSFETをずっとONにしているとコンデンサへ充電することができないので、ある程度の周期でハイサイド側をOFF・ローサイド側をONにする必要があります。(MOSFETIGBTのゲートは絶縁されているのでONになったあとは電流が流れないように思えますが、実際には半導体スイッチやゲートドライバ等の漏れ電流で多少の電流が流れます)つまり、特殊な回路を組まない限り常時ONが必要な回路では使用できないというわけです。

この点を理解したうえで回路設計を行う必要があります。

 

ゲートドライバICの選定方法

メインとなるゲートドライバICにもいろいろな種類があります。ハイサイド側・ローサイド側両方のスイッチを駆動できる製品のほか、昇圧機能を持たずローサイド側のみを駆動できる製品もあります。また、ハイサイド側・ローサイド側を独立してして駆動できる製品もあれば、入力信号のHLでハイサイド側・ローサイド側のON/OFFが切り替わる製品もあります。ですので用途に応じて選ぶ必要があります。

今回はハイサイド・ローサイド両対応でそれぞれ独立して駆動できるIR2110を使用します。なお、この製品にはハイサイド・ローサイド切り替え時のデッドタイムの挿入機能はありません.

データシートのURL:

https://www.infineon.com/dgdl/ir2110.pdf?fileId=5546d462533600a4015355c80333167e

英語ですが何とか読み解くことができるとは思います。

 

周辺回路の部品の選定

何もない状態では、周辺回路に何が必要かというのもわかりにくいのでデータシートに必要な回路図をデータシートから引用します。

IR2110

ゲートドライバICの周辺回路はこの回路図のように組む必要があります。

入力側(左側)のコンデンサはIC周辺に良く取り付けるパスコンですので、0.1μFから1μF程度のものを取り付けます。

右下のコンデンサは次にIRの資料を読み解くと次に紹介するブートストラップコンデンサの10倍の容量のコンデンサを取り付ける必要があると書かれています。ただし、パスコンとして扱って0.1~1μF程度のコンデンサを取り付けても、安定性や特性を除くと回路としての動作は確保できます

右上のコンデンサはブートストラップコンデンサです。ハイサイド側MOSFETのゲート駆動に使う電力はこのコンデンサにため込みます。そのため、計算を行ったうえで容量を出す必要があります。

 

ブートストラップコンデンサの容量計算

ブートストラップコンデンサの計算方法はゲートドライバICを製造しているIR社から分かりやすい資料が出ているのでこれをもとに計算します。

まずはURL

https://www.infineon.com/dgdl/Infineon-dt98-2j.pdf-AN-v01_00-JA.pdf?fileId=5546d46256fb43b3015756f4cf4643fb

この資料のpage2 の式1にこのコンデンサの最小電荷の計算式が書かれています。

 ir2110 式1 

この式でコンデンサの最小電荷量が求まります。ここで注意が必要なのがハイサイドスイッチのゲート電荷量です。これはゲート容量と異なるので注意が必要です。ゲート容量は単位が[pF]などのファラッドですが、ゲート電荷量は単位が[nC]などのクーロンとなります。データシートを読むとMOSFETの場合は大体データシートにゲート容量と合わせてゲート電荷量が書かれていますが、IGBTの場合書かれていない場合が多いです。この場合はゲート容量からQ=CVの式で算出できますが、MOSFETのデータシートを読むとゲート電荷量の方が倍程度大きい場合がありますので今回はQ=CVの式を2倍にした以下の式で近似を行います。

 ir2110 式2

これにてブートストラップコンデンサの必要な電荷量が求まりました。これを必要な要領に変換しますが、資料にも書かれている通り電荷が完全に0になるとゲートをONにできなくなるなどの不具合が発生するため、ここで計算した容量の最低2倍以上の容量が必要となります。このことを考慮したうえの式がpage3の式2です。ここでは上で計算した値を用いた計算式を紹介します。ir2110 式3

この式で最低限のコンデンサの容量が求まりますが、資料に書いてある通り容量の小さいコンデンサを使用すると過充電などが発生しゲートドライバICにダメージを与える場合があるので、大体15倍程度した容量以上のコンデンサを取り付けるとよいでしょう。

また、各パラメータは最悪の状態(周波数だとVVVFの場合非同期のPWM最低周波数or同期モードでの波形の最低周波数、その他のパラメータはデータシートにおける最悪値)で計算を行います。また、電解コンデンサを取り付ける場合は並列にパスコンを入れる必要があります。

 

ブートストラップダイオードの選定

重要な項目としては先ほどの資料に書かれている通りです。

・逆耐圧Vrrmが主回路の電圧以上であること

・最大逆回復時間が 100ns以下であること

・順方向電流IQbs(ゲート電荷量)×fmax(最大動作周波数)以下であること

を満たしているなら問題ありません。基本的に特性の良いファストリカバリダイオードを使うと良いでしょう。

 

ゲートドライバICの内部構造

ゲートドライバICの内部の回路は以下の回路で構成されています。データシートから引用しています。

ir2110回路図

左側の入力端子からプルダウン抵抗、シュミットトリガNOT回路、論理回路(RSFF3入力NOR)、レベルシフタ回路とありハイサイド側はさらにレベルシフタ回路やフィルタ回路等を挟みトーテムポール出力、ローサイド側は遅延回路等を挟みトーテンポール出力となっています。ちなみにシュミットトリガ回路というのは入力のHLの閾値を超えた時のみにHLが切り替わる回路で入力が高速に切り替わることなどを防いでくれます。RSFFは入力信号の保持を行っています。ここではあくまで紹介ですので、詳しくは各回路の名前で検索してください。


回路編 第7回 MOSFETとIGBTの駆動回路

前回にモータを回す回路やVVVFの回路を構成するための半導体スイッチの配置についてのお話をしました。今回はその半導体スイッチを動かすための回路のお話です。

半導体スイッチを駆動する回路はMOSFETIGBTゲート部が絶縁されているのでほぼ同じ構成ですが、トランジスタは少し、異なる回路構成となります。今回は前者のゲート部が絶縁型半導体スイッチであるMOSFETIGBTの駆動回路について説明します。まずは、簡単なラジコンのモータを回すような、低圧回路でのMOSFETの駆動回路について説明したいと思います。

 

ゲート駆動の考え方

前々回の記事で紹介したようにFETは電圧駆動で動作する素子です。内部的にゲートとソースは絶縁されているので理論的には電流は一切流れることはありません。しかし、実際にはソースとゲートが絶縁されていることによりソースとゲートの間にコンデンサができてしまいます。これを等価的な回路図にするとこのようになります。

ゲート部

このように、コンデンサがあることにより、出力をONにした瞬間に大電流が流れるという問題や電荷がわずかに漏れてしまう問題、それ以外にもOFFにしても電荷が残ってしまうことで、ゲート部の電圧が下がるのが遅くなり、FETOFFになるのに時間がかかってしまうなどの問題が発生します。これらを解決するには一定の電流内でできるだけ速くコンデンサを充放電させる必要があります。これを実現するためにはON時は電源から大きな電流を取り出し、OFF時はGNDに大きな電流を吐き出せる回路が必要というわけです。この要求を満たす回路にこのような回路があります。

トーテンポール

このような回路をトーテムポール出力とかプッシュプルと言います。INの端子からHIGHの信号が来ているときは上段のnpnトランジスタがONになって出力はVccとなり、INから信号がない(厳密にいうと電流が吸い込まれているとき)ときは出力はGNDとなるわけです。

プッシュプルの入力でもHIGHLOWの出力が必要となりますが、この回路を介すことでインピーダンスを大幅に下げることができます。そのため、スイッチとプルダウン抵抗程度の回路でも、出力段では比較的大電流が流せる出力信号が得られるというわけです。

 

実際にゲートドライブ回路を製作するときには、この回路が内蔵されているフォトカプラやゲートドライバICを使うのが便利です。このような部品を用いることで回路を小型に仕上げることもできます。

 

ゲートドライブ回路の設計

最初はトーテムポール回路が内蔵されたフォトカプラTLP-250を使ってラジコンのモータドライバのMOSFETの駆動回路を紹介します。


駆動回路

TLP-250でゲート駆動をする回路は、このような感じの回路になります。先ほどのトーテンポール回路がフォトカプラの中に内蔵されたので非常にシンプルな回路構成となります。

フォトカプラの周辺の部品について説明します。VccGNDの間のコンデンサはノイズ除去のためでデータシートに入れるように明記されているものです。

続いて3つの抵抗器の役目と選び方です。

Rled

これはフォトカプラ内部のLEDの電流制限を行う抵抗器です。抵抗器の回で紹介したLEDの抵抗選定の方法で抵抗器を選びます。5V回路の場合は330Ω程度になります。

R

MOSFETのプルダウン抵抗です。フォトカプラが故障等で信号が出なくなった時にMOSFETの入力が不定になることを防いだり静電気からの保護をしています。抵抗値はプルダウン抵抗ですので10kΩ程度で良いでしょう。

RG

FETのゲート抵抗です。先ほど紹介した通りMOSFETゲート部分にはコンデンサがあります。理論上ゲートに電圧を印加した瞬間に無限大の電流が流れてます。大電流が流れるとフォトカプラが壊れる可能性があるほか、MOSFETもリンギングを起こして壊れてしまいます。その電流を制限するのが抵抗器RGの仕事です。

この抵抗器の抵抗値の選定ですが、抵抗値が大きいとMOSFETのスイッチング速度が遅くなりスイッチング損失が大きくなります。逆に低い場合スイッチング速度は速くなりますが、リンギングが発生する場合があります。そのため、設計する回路の条件によりゲート抵抗を選定しますが、計算で求めるものではありません。実験を行い、オシロスコープなどで波形を確認しながら選定を行ってください。なお、ゲート抵抗の範囲としては数Ωから数百Ω程度が一般的です。(筆者はゲートドライバICを使っていますが、ゲート抵抗は10Ωにしています)

 

低耐圧回路の設計

抵抗器の選定ができたので先ほどの駆動回路を4つ並べて、モータを駆動できる回路を構成します。


FullN

NチャンネルのMOSFET4つを用いたHブリッジです。このような構成の回路をフルNHブリッジといいます。このタイプの回路は比較的大きな電力のモータを回す回路でよく使われています。

しかし、この回路ではラジコン等の小型の機械のモータを回すのには不都合な点があります。それは、NチャンネルのMOSFETの特性上モータの電源電圧より高い電圧のゲート駆動電源が必要ということです。ただし、この回路構成が使えるのは、「モータ駆動電源の電圧+ゲート駆動電圧 ゲートソース間耐圧」となっている場合に限られます

小型のラジコンレベルで複数の電源を用意するのは大変です。そのため、場合によりハイサイド(上側)のFETPチャンネルとしたHブリッジが使われる場合もあります。回路図を以下に示します。

PN

この回路は、PN混合のHブリッジです。PチャンネルのFETソース(+端子)より低い電圧をゲートに印加することでONになるため、バッテリの電源だけでMOSFETを駆動することができます。主に小型の小電力のモータを回すための回路で使われます。

しかし、PチャンネルのFETの性能はNチャンネルのFETの性能に比べて低いため大電流を流す回路には不向きという問題があります。また、NチャンネルのMOSFETPチャンネルのMOSFETで特性が違うと変な挙動を起こす可能性があるので特性を合わせた、NチャンネルとPチャンネルでコンプリメンタリのMOSFETを使うのが理想的です。(デッドタイムとかうまく設定すれば特性が違ってもきちんと動くかもしれないですが…)

以上でラジコンのモータを回すためのMOSFETの駆動回路は終わりです。

 

高耐圧回路の設計

次は高耐圧のIGBTを用いた回路設計をしていきたいと思います。先ほどのラジコンの場合の回路とは主に耐圧関連の設計が大幅に変わるということです。まず、ラジコンモータドライバで紹介したPN混合のHブリッジはIGBTでは実装できません。また、フルNチャンネルのHブリッジではゲート駆動電源をすべて同じ電源から取得していましたが、この構成もできません。つまり、ゲート駆動電源の設計も大幅に変わります。

まず、素子の耐圧(ソース・ドレイン間、コレクタエミッタ間)の選び方ですが最低でも入力の電源の電圧より高い耐圧の素子を使わなければなりません。実際には余裕をもって倍程度の耐圧のものを選ぶとよいでしょう。

例として、三相200VVVVFを作る場合を考えます。入力はAC200を整流したDC280V程度なので耐圧600Vの素子を使うと良いでしょう。

 

続いて素子の耐電流の選び方ですが、モータの定格出力を守って制御するなら定格の倍程度の電流に耐えるような部品を選べばよいでしょう。無茶な制御をしたい場合は10倍ぐらい余裕を持ておいた方がいいかもしれません。電圧電流の両方に対して言えることは高電圧がかかる回路なのでかなりのゆとりを持った設計をするのが大切ということです。

 

続いてソースゲート間、エミッタゲート間の耐圧のお話です。実はゲート部の駆動回路自体はこちらの耐圧の都合が非常に大きく関係してきます。耐圧が600V程度の製品でもソースゲート間やエミッタゲート間の耐圧は30V程度の製品が多いです。つまり、最初のラジコンの回路で用いたように電源電圧より高いゲート駆動電源を用意してその電源でゲートを駆動するということができないのです。理由を以下の回路図を使って説明します。


FullN -電圧

回路図を見ると、ローサイド側のスイッチのゲート部に120Vが印加されているのがわかります。これは、明らかに耐圧オーバーというわけです。ハイサイド側は、モータが駆動しているときは、ゲートソース間電圧は20Vぐらいになりますが、電源を入れた瞬間などにゲートソース間の耐圧を上回る可能性はあり得ます。ですのでこの方法でスイッチを駆動するということはできません

そのため、ある程度以上の電圧のHブリッジではそれぞれの半導体スイッチのソースとゲート間に別々の絶縁された電源を用意して半導体スイッチを駆動するというわけです。回路図で表すと以下のようになります。IGBT 駆動

この回路図中のVCCGNDはそれぞれ別の電源のものとします

ローサイド側のスイッチの駆動電源は1になっています。これが可能な理由は、ローサイド側のスイッチはソース端子が共通、つまりすべて同電位であるためです。

それに対して、ハイサイド側はソース端子がそれぞれ別々に分かれているので、電位はバラバラです。そのため、スイッチごとに絶縁電源が必要というわけです。

なお、絶縁電源はGNDも完全に絶縁されていることが必須なので注意してください。

 

ゲートドライバIC

このような高圧の駆動回路で3相のVVVFを作るとなると電源が大量に必要になって大変です。特に、自作VVVFレベルではかなりのコストがかかって大変です。そこで、絶縁された電源を簡単に作ることができるゲートドライバICというものがあります。電子工作レベルではそのようなICを使うと安く楽に回路を作れるのでおすすめと言えるでしょう。第11回ではゲートドライバICについて説明したいと思います。

 

 

回路編 第6回 半導体スイッチの回路

今までは電子部品のお話ばっかりでしたが、今回からは回路的なお話をしたいと思います。今回は1つの半導体スイッチでだけで作れる回路は限られるので、半導体スイッチを複数組み合わせて回路を作るというお話です。

 

今回の回路図では素子をすべてMOSFET(以後FET)の図記号で記載します。また、次回の半導体スイッチの駆動回路のお話のときの都合上、低圧のラジコンのモータドライバを例に紹介を行っていきます。

 

まずは、単純に半導体スイッチを使ってラジコンのモータを回す回路です。

半導体回路1

この回路は、FETONにするとモータが回って、OFFにするとモータが止まる、FETを使ったON/OFF回路です。ですが、ラジコンのモータドライバとして使うには、問題があります。それは、モータを逆向きに回せないということです。この問題を解決するために、電源とFETを1つづつ増やした回路を考えてみます。

半導体回路2

このようにすることで、上のFETONにする場合と、下のFETONにした場合電池の向きが逆になるのでモータの回転方法が逆になります。これにより、目的が達成できたように思えますが、実はこれも完成形ではありません。この回路だと電池が2つ必要とるためコストや重量が大きくなってしまいます。

そこで1つの電源で+-も両方出せる、つまり電源1つでモータの正転も逆転もできる回路があればベストといえます。ここで、FETを4つ使いの以下のような回路にすることで、これが実現可能になります。
半導体回路3

この回路は一般的にHブリッジと言われる回路です。簡単な回路ですが、一応説明をしておきます。まずはモータを正の方向に回したい時は23FETONにします。

半導体回路4

すると緑の線を引いたところに電流が流れますね。電流の向きは矢印を書いた向きなのでモータの左から右です。 次に逆向きに回したい時は14FETONにします。

半導体回路5

今度も緑の線を引いた通りに電流が流れるので、今回はモータの右から左に電流が流れますね。このようにすることで1つの電源からモータを正回転と逆回転をさせることができます。

単相のVVVFの場合も同じ原理で+向きと-向きの電圧・電流を作り出します。また、34FETONにすることでモータにブレーキをかけることもできます。

半導体回路6

ブレーキモードでは緑の線のような回路が構成されるのでモータがショートした状態となってブレーキがかかります。しかし、これをするためには、半導体スイッチ保護用のダイオードが必須です。その理由は半導体スイッチに逆向きに電圧をかけると破損するからです。(ONにしてる時はじつは逆向きに電流流しても大丈夫って話も聞くけどやったことないのでわからないです…)

Hブリッジの回路ではブレーキ時はもちろん、開放状態にしたときにもモータから逆起電流が発生するので、FETに逆向きの電圧がかかってしまいます。すると、何も保護していないFETFETの場合寄生ダイオードがあるので厳密には保護されている)は故障してしまいます。そこで、FETと逆方向にダイオードを追加することで、逆向きの電圧・電流をダイオードに流し、FETを保護します。

 半導体回路7

先ほどのHブリッジにダイオードを追加するとこのようになります。このようにすると、モータのブレーキをしたときなどにFETに逆向きの電圧がかかることはなくなります

 

最後に3相のVVVFの回路図を示します。

半導体回路8

 この回路は、Hブリッジにアーム(上下のFETの組)1つ追加したものとなっています。そのほかは特にHブリッジと差はないと言えます。


回路編 第5回 半導体スイッチ

VVVFの作り方第5回は半導体スイッチです。第4回まで半導体スイッチよりもさらに基礎的なお話をしてきましたが、第5回になってやっとVVVFの根幹部分である半導体スイッチのお話ができるようになりました。(長かった…)鉄道でVVVFと言えばGTOサイリスタとかIGBTとか聞いたことがあると思います。このようにVVVFの種類のように言われるくらい重要な素子というわけです。この章を読めば、なぜ素子の種類によって音が違うのかということやVVVFはなぜメッシュ状のケースに入っているのかということがわかると思います。

 

種類

トランジスタ

正式にはバイポーラトランジスタと言います。トランジスタというと意味的には後のMOSFETなども含んでしまいますが、単にトランジスタというとバイポーラトランジスタのことを指すことが多いです。

アナログ回路では電流を増幅させるために用いる部品ですが、デジタル回路では電流を入り切りするためのスイッチとして使います。また、大電流を扱うことができるトランジスタは特にパワートランジスタと呼ばれています

MOSFETに比べると高耐圧で大電流に耐えることができますが、スイッチの速度が遅いのが特徴です。

また、コレクタ電流(主回路電流)はゲート電流で制御するのでトランジスタの制御回路もある程度の大電流に耐える回路が必要になります。

 

MOSFET

あくまでトランジスタの一種ではありますが、バイポーラトランジスタが電流制御であるのに対してMOSFETは電圧制御でスイッチをします。なので、制御回路には理論的には電流は流れません。ただし、電流が流れないというのはあくまで理論上の話で、実際にはゲート部にコンデンサの要素を持っているため電流は流れてしまいます

また、トランジスタに比べて高速にスイッチができますが構造的に耐圧を上げるとオン抵抗が増加し、発熱の関係で耐電流が大幅に低下するという特徴がありますが、近年は技術の進歩でSicと呼ばれる炭化ケイ素で作られたMOSFETが電車のVVVFでも使われるようになりました。

 

IGBT

トランジスタの高耐圧大電流特性とMOSFETの高速スイッチ性と電圧制御を組み合わせ高耐圧耐電流に耐え、高速スイッチで電圧制御にした部品スイッチ速度はMOSFETより遅くなりますが、高耐圧で大電流に耐えます構造的にはゲート部がMOSFETのトランジスタです。

 

サイリスタ

昔は鉄道分野でもよく使われていた素子です。昔の交流電車で使われていたほかVVVFでも使われていましたが、近年はあまり使われなくなった素子です。

上の3つに比べて高耐圧で大電流に耐えるという特性がありますが、スイッチ速度が遅い他、通常構造のサイリスタでは一度ONにすると何かしらの方法でメイン回路に流れる電流を切らない限り電流が流れ続けてしまうという問題があります。交流回路では電流の波が0になるタイミングがあるので問題ないのですが、直流回路では都合が非常に悪いです。これを改良したものにGTOサイリスタと呼ばれるものがあり、少し前の鉄道車両のVVVFでは非常によく使われていました。GTOサイリスタはメイン回路の電流を切らなくても、制御端子から電流を引き抜くことでメイン回路の電流を切ることができます。なお、電子回路レベルだけでなく、近年は鉄道車両分野でも使われなくなったのでここでの紹介だけにしておきます。

 

図記号と端子

ここで、トランジスタ、MOSFETIGBTの図記号とそれぞれの端子示します。端子名を出さないと以後の説明が大変なのでそれぞれの端子の機能を知っておいてください。


スイッチ図記号

各端子の機能

トランジスタ

B:ベース npn型ではこの端子に電流を流し込み、pnp型では電流を引き出すことでコレクタ,エミッタ間の電流を制御する

C:コレクタ npn型では電流が流れ込む端子で pnp型では電流が流れ出す端子で、ベースに流した電流のhfe倍の電流が流れる

E:エミッタ npn型では電流が流れ出す端子でpnp型では電流が流れ込む端子で、コレクタとベースに流れる電流の和の電流が流れる。 

 

MOSFET

G:ゲート ソース端子との間の電圧によりドレインソース間の電流を制御する端子Nチャンネルではソースより高い電圧でドレインソース間が通電しPチャンネルではソースより低い電圧を加えることでソースドレイン間が通電する

S:ソース Nチャンネルでは電流が流れ出す端子でPチャンネルでは電流が流れ込む端子ゲートとこの端子の間の電圧で駆動するMOSFETの特性上MOSFETを駆動する基準となる電圧を取る端子である。

D:ドレイン Nチャンネルでは電流が流れ込む端子でPチャンネルでは電流が流れ出す端子。

 

IGBT

G:ゲート エミッタとこの端子との間の電圧でコレクタとエミッタ間に流れる電流を制御する端子

E:エミッタ 電流が流れ出す端子で、ゲートとこの端子との間の電圧で駆動するIGBTの特性上、IGBTを駆動する基準となる電圧を取る端子でもある。

C:コレクタ 電流が流れ込む端子

 

トランジスタとMOSFETではnpnpnp型、NチャンネルPチャンネルとありますが基本的にVVVFなどのパワー回路で使われることが多いのはnpn型やNチャンネルです。理由としては素子自体の性能が良いということや、ベース・ゲートに電流や電圧をかけるとメイン電流が流れるのでわかりやすいといったことがあります。なお、電子回路レベルの電流が少ない場合でもnpn型・Nチャンネルが使われることが多いです。しかし、パワー回路ではベース・ゲート駆動用の電源が用意できないなどの都合でpnp型やPチャンネルを使う場合もあります。詳細は次回とします。

 


 

半導体スイッチの用途

半導体スイッチはその名の通りスイッチをするための部品ですので、電気指令でスイッチをオンオフする回路で使われます。LEDを点滅する回路であったり、モータを回転させる回路であったりスイッチをする必要のある個所では様々な箇所で使われますね。

 

半導体スイッチの比較

それぞれの半導体スイッチの簡単な性能の比較をしたいと思います。性能的に大なり小なりをつけてますが、多少の前後はあるかなあと思います。

スイッチング速度

MOSFET>IGBT>トランジスタ>サイリスタ

スイッチできる速度の差はこのような感じになっています。電車のVVVFでもパワートランジスタを使った車両(2070番台とか)はかなり低音が流れるのに、IGBTを使ったVVVFは比較的高い周波数が聞けますね。さらにSic-MOSFETの車両(323系など)はもっと高い音が聞こえてきますね。このことからも直感的にわかると思います。まあ、GTOサイリスタはパワートランジスタに近い感じの音が聞こえてきますので、スイッチング速度は遅いってことがわかります。

 

耐電力(耐電圧・耐電流)

サイリスタ>IGBT>トランジスタ>MOSFET

イメージ的には古い車両にあるトランジスタのほうが耐電流が高そうですが、少なくとも近年の世界ではIGBTのほうが性能高い模様です。電車のVVVFで新しい世代のほうが性能が低くなるのは、半導体技術が進歩して性能が相対的に低い素子でも電車を走らせられるようになったというのが大きいです。

 

半導体スイッチでの損失

ダイオードの回でもありましたが、半導体スイッチにも損失というのもが発生します。ダイオードでは計算可能な損失は順方向の電圧降下と順方向の電流の積の損失だけでしたが、半導体スイッチでは半導体を電流が通るうえで発生する損失のほかに、スイッチのON/OFF時にも損失が発生してしまいます。損失はそれぞれ別途で計算をしてから足し合わせることで求めることができますので、今回はそれぞれ別々に考えたいと思います。

半導体を電流が通るときの損失

わざわざ、題名をこんなに長く書いたのには理由があります。それは半導体を電流が通るときに発生する損失の発生原理がトランジスタ・IGBTMOSFETで違うからです。

トランジスタ・IGBTでは半導体に流れる電流によらずほぼ一定の電圧が半導体で消費されます。これはダイオードと同じで順方向電圧というものです。順方向電圧と順方向の電流の積が損失となるわけです。

これに対してMOSFETでは半導体に電流によらずほぼ一定の抵抗が発生します。これをオン抵抗と言います。つまり、オン抵抗と電流の2乗との積で損失が発生します。

トランジスタとIGBTでは流れる電流に比例して発熱量が増えるのに対して、MOSFETでは流れる電流の2乗に比例して損失が発生します。損失の増え方をざっと簡単なグラフで見てみましょう。

比較1

このグラフでは横軸が電流で、縦軸が損失です。つまり、電流が少ない状態ではMOSFETは損失が少ないですが、電流が増えると圧倒的に損失が増えるということです。

しかし、実際にトランジスタ・IGBTMOSFETでどちらの方が損失が少ないかというと、基本的には電圧が低い回路ではMOSFETの方が損失が少なく電圧が高い回路ではトランジスタ・IGBTの方が損失が小さくなります。理由は、MOSFETは構造的に耐圧を高くすると半導体の厚みが増しオン抵抗が高くなってしまうからです。

 

比較

実際に秋月で売られている部品同士で比較をしてみます。条件は価格と耐圧が近いことにします。

耐圧が50V程度の場合

トランジスタを2SC1061C(耐圧50V  35 順方向電圧1.0V)MOSFET2SK4017(耐圧60V 30 オン抵抗0.07Ω)として比べてみます。条件的にはFETの方が悪いです。

比較2

MOSFETの方が条件が悪いにもかかわらずMOSFETの許容電流の範囲(トランジスタの許容範囲超えてるのは無視)では圧倒的にMOSFETの方が発熱が少ないことがわかります。つまり、低圧で低電流な場合ではMOSFETは圧倒的に有利なわけです。

 

耐圧50Vで大電流の場合

トランジスタ系の素子で低耐圧かつ大電流の素子が秋月では売られていません。そのため、トランジスタ系のみ耐圧が高いもので比べてみます。IGBTRJH60F6DPK(耐圧 600V 300円 耐電流85A 順方向電圧1.75V) MOSFETTK100E06N1(耐圧60V 160円 耐電流100A オン抵抗1.9mΩ)で比べてみます。

比較3

トランジスタ系の素子は耐圧を無視しても最も電流を流すことができる素子を選びました。耐電流を下げるともう少し順方向電圧が低いものもありますがせいぜい2割程度下がるだけです。この場合でもMOSFETは発熱量がトランジスタに比べて圧倒的に小さいことは明らかです。つまり、低圧の回路では圧倒的にMOSFETが有利なことがわかります。

 

耐圧が600Vの場合

IGBTGT50JR22(耐圧600V 320円 順方向電圧1.55V) MOSFETTK31J60W(耐圧600V 320円 オン抵抗0.073Ω)で比べてみます。最初の50Vで部品をそろえた時と条件を合わすためにまずは5A以下のグラフを見てみましょう。

比較4

耐圧が高くなったのに先ほどと同じようなグラフになりました。電流が少ないと、この程度の耐圧でもMOSFETが勝ってしまうのです。続いてMOSFETの耐電流である30Aまで電流を増やした場合を見てみましょう。
比較5

 20Aを超えたあたりでやっとMOSFETの発熱がIGBTの発熱を上回りました。このように電圧が高くてかなりの大電流を扱う場合(大電力)IGBTが有利なのです。

 

以上より低圧の回路ではMOSFETを使う方が、圧倒的に発熱が少なく高圧大電流の回路ではトランジスタ系の素子の方が発熱が少ないことが明らかになると思います。つまり、鉄道ぐらいの大きさになればMOSFETよりIGBTの方が圧倒的に発熱が少なくなるのでIGBTがよく使われてきたというわけです。

これより、電圧も比較的低くて電流も少ない電子工作レベルではMOSFETが適切な素子と言えますね。

 

スイッチング損失

スイッチング損失はスイッチをON/OFFするときに際に発生する損失のことです。先ほどの順方向電圧と電流の積による損失やオン抵抗による電流の2乗の損失に比べると小さなものにはなりますが、スイッチ速度が比較的遅いトランジスタやIGBTで高い周波数でのスイッチングを行うと、損失は大きなものになります

なお、ここでのスイッチングの周波数というのは出力正弦波の周波数ではなく正弦波を生成するためのPWMの周波数のことです。

スイッチング損失というのがなぜ発生する理由を説明します。半導体スイッチがON/OFFをするときは瞬間的にON/OFFするのではなく少し時間をかけてON/OFFの動作をします。その様子を表したグラフを見てみます。
オン時間

Iと書かれている線がON時に半導体スイッチに流れる電流を示していて、Vが半導体スイッチにかかる電圧を示しています。そして、電流が10%から90%になる間の時間をtr(立ち上がり時間)としています。

このグラフより、半導体スイッチにある程度の電圧がかかっているのに電流が流れているタイミングがあることがわかります。スイッチング損失はこの時間に発生します

また、半導体スイッチをOFFにするときにも同じように損失が発生します。

 

スイッチング損失の損失の計算は以下の式になります。

Ion:オン時に半導体スイッチに流れる電流[A]

Voff:オフ時に半導体スイッチにかかる電圧[V]

tr:半導体スイッチの立ち上がり時間[s]

tf:半導体スイッチの立ち下り時間[s]

f:スイッチング周波数

P:損失[W]

スイッチ1

この式は、1回あたりの発熱量[J]に周波数をかけて1秒当たりの発熱[W]にしたものです。

半導体スイッチの立ち上がり立ち下がり時間が比較的遅い素子では損失がスイッチング周波数が高いと無視できない程度になります。

 

トランジスタ、IGBTMOSFETのスイッチング損失を確認します。条件と使用する素子は以下の通りです。

オフ時の電圧:100[V]

オン時の電流:5[A]

スイッチング周波数:1[kHz]

トランジスタ:2SC2837(立ち上がり時間0.2μs立ち下がり時間 1.1μs)                 

IGBT:RJH60F6DPK(立ち上がり時間80ns立ち下がり時間 74ns) 

MOSFET:2SK2698(立ち上がり時間50ns立ち下がり時間 65ns)     

スイッチ2

上からトランジスタ、IGBTMOSFETの順になっています。トランジスタの立ち上がり立ち下がり時間が長いので圧倒的に損失が大きい結果となりました。

スイッチング損失は、半導体スイッチを電流が通るときに発生する損失に比べるとはるかに小さいものとなっています。今回のように電圧が比較的低く、スイッチング速度もそこまで大きくない場合は損失が小さいですが、電圧が高くて高速スイッチングを行う場合では無視できない程度の損失にもなります。

電車位の規模だと、この損失も大きくなるので、立ち上がり立ち下がり時間が長いパワートランジスタやサイリスタ系の素子で高速なスイッチングを行うと損失はとんでもなく大きいものになり、非効率と言えます。パワートランジスタやGTOサイリスタのインバーター音が低いのもこれも理由の1つです。

 

半導体スイッチの選定方法

今回のお話で最後のお話として、半導体スイッチの選び方そして取り付ける放熱板の選び方のお話をします。

まず、半導体スイッチを選ぶにあたってトランジスタを使うか、IGBTを使うか、MOSFETを使うかの3択があります。基本的には100~200Vを超えるような比較的高い電圧で10Aを超えるような大電流を流す場合はIGBTを選択し、これ以外の場合はMOSFETを選ぶのが無難です。トランジスタはIGBTMOSFETで最適な部品が見当たらない場合に使うとよいでしょう。

 

型番の選び方

単純にデータシートに書かれている耐電流と耐電圧を見て決めるのはいけません。理由は半導体スイッチには損失がありその損失が熱として放出され半導体の許容温度を超えるからです。

 

損失による半導体の温度は以下のような式で表せます。

T:温度[]

P:発熱量[W]

R:熱抵抗[/W]

T = P×R

単位から考えると簡単だと思います。発熱量はもちろん半導体スイッチに電流が通るときの損失とスイッチング損失を足し合わせたものです。

 

例として、MOSFETTK100E06N1にデータシートに書かれている最大電圧印加時に最大電流を流した場合の温度を計算してみます。

オン抵抗による損失

100^2*0.0019=19[W]

1kHzでのスイッチング損失は

(1/6) *100*60*(67+64)*(10^-9)*1000=0.131[W]

足し合わせて

19.131[W]

となります。そして、放熱板を付けない場合の熱抵抗は88.3[/W]なので、温度は

19.131*88.3 = 1689.2673[]

となります。温度的に考えると鉄が溶ける温度よりもさらに上の温度です。もちろんこんな温度に半導体が耐えるわけがありません。つまり、データシートに書かれている最大電流はあくまで相当な放熱対策をした場合の値というわけです。

型番を選定するときは、発熱量と放熱性を考えて部品制定をする必要があります。

 

選定の方法は以下の2つの方法があります。

・耐電流に対して使用する半導体を選び、発熱量に合わせた放熱板を選定する

・放熱板のサイズをあらかじめ決めておき、耐電流より最大のオン抵抗か順方向電圧降下を求め、それを満たす半導体を選ぶ

 

まずは、前者の選び方の計算方法です。まずは発熱量を計算します。

Ion:オン時に半導体スイッチに流れる電流[A]

Voff:オフ時に半導体スイッチにかかる電圧[V]

Ron:MOSFETのオン抵抗[Ω]

VCE:トランジスタ・IGBTの順方向電圧[V]

tr:半導体スイッチの立ち上がり時間[s]

tf:半導体スイッチの立ち下り時間[s]

f:スイッチング周波数

P:損失[W]

 

18/01/24追記 MOSFETのON抵抗は温度が最大の時のオン抵抗で計算を行う必要があります。温度が最大の時のオン抵抗はデータシートのグラフを確認してください

スイッチ3

このように発熱を求めることができます。そして、放熱板を選定する上で必要なパラメータである熱抵抗を計算します

Tair:外気温[]

Tj:半導体の許容温度[]

P:損失[W]

R:熱抵抗[/W]

スイッチ4

こちらも単位から考えると簡単だと思います。

これで熱抵抗が求まりましたが、この値の熱抵抗を持つ放熱板を取り付けてはいけません。理由は半導体と放熱板の間にも熱抵抗が発生するからです。その熱抵抗は半導体内部と半導体のケースの間、そして半導体のケースと放熱板の間です。

半導体の内部とケースの間の熱抵抗はデータシートに書かれていますのでそれを利用できます。

そしてケースと放熱板の間の熱抵抗は間に挟む絶縁シートなどにより異なります。その計算方法は以下の通りです。

λ:熱伝導率[W/m*K]  Kは温度差なのでは℃として計算可

t:放熱シートの厚さ[m]

A:放熱シートの面積[m]

キャプチャ

最終的に放熱板を選ぶときは、先ほど求めた熱抵抗から半導体の内部とケースの熱抵抗とケースと放熱板の間の熱抵抗を引いた値以下の熱抵抗をもつ放熱板を使わなければなりません。

例として、先ほど100Aを流すと鉄が溶ける温度になったTK100E06N1に取り付ける放熱板の熱抵抗を計算します。

発熱量は19.131[W]で半導体の許容温度は150[]で外気温を35[]とすると

R= (150-35)/19.131 = 6.011[/W]

となります。

半導体の内部とケースの熱抵抗は0.49[/W]TO-220の絶縁シートの熱抵抗は以下のように計算します

λ:熱伝導率[W/m*K] 

t:放熱シートの厚さ[m]

A:放熱シートの面積[m]

スイッチ5

これより放熱板の熱抵抗は以下の値を下回る必要があります。

Rheatsink = 6.011 – 0.49 -1.087 = 4.434 [/W]

実はこの値の下回る放熱板は秋月では売られていないです。つまり、かなり大型のヒートシンクが必要というわけです。

ヒートシンクが見つからない場合は最初に戻って、別の半導体スイッチを探して再度計算します

 

放熱板の大きさから大体のオン抵抗か順方向電圧の目安を算出して、半導体スイッチを探す方法

放熱板を選ぶと熱抵抗がわかります。その熱抵抗に、半導体の内部から放熱板までの熱抵抗として仮に2[/W]を足し合わせます。続いて、半導体の許容温度ですが大体150[]程度のものが比較的多いので、許容温度150[]、外気温は35[]と仮定して計算をします。スイッチング損失については比較的小さい値ですので省略して考えると、以下のように最大発熱量が求まります。記号は今までと同じなので定義は省略します。

スイッチ6

許容発熱量の概算が求まれば必要な順方向電圧かオン抵抗は簡単に求まります。
MOSFET
17/12/24 式訂正 (入力ミスで^2のところをROOTしていました)

ここで求めた順方向電圧、オン抵抗と最大順方向電流そして耐圧を満たす素子を選びます。そして、選んだ素子のデータシートから各種パラメータを正式に導き出し、実際の発熱を計算します。この温度が許容温度を下回っていれば選んだ素子が問題なく使用可能というわけです。

 

安全率

安全率とは実際に使用する際に必要な性能に対して設計段階で持たせた余裕の率です。電子工作レベルでの半導体スイッチの選定では最初のオン時に流れる電流の段階で実際に流す電流の1.5倍から2倍程度の電流まで流しても大丈夫なように設計すれば問題ありません。

今までの式のIonは実際に流す電流の1.5倍から2倍程度の電流値として計算をすればよいでしょう。

回路編 第4回 ダイオード

VVVFの作り方第4回はダイオードについてです。

前回のコンデンサとインダクタについてはアナログ回路的に考えると非常に難しいものでしたが今回以降はまた別のベクトルでちょっとややこしい話にはなります。ただ、今回の難しいところはVVVFの設計のミソとなる部分なのであまり簡単に説明はするものの、省略はできません。今回の話と次回の半導体スイッチの設計法を読めば電車のVVVFとかチョッパーがなぜ通気性の良さそうな箱に入っているのかってことがわかると思います。

 

 

ダイオードとは

ダイオードって言われて何に使うものか思いつくでしょうか?最近だと省エネ関連で発光ダイオードであるLEDの照明とかが有名なのでなんとなく名前を聞いたことがあるかもしれません。ダイオードを一言で言うと、一方向にしか電気を流さない素子です。しかし、ダイオードの中にはLEDのように光を発してそれ自体が電力を消費させるのが目的のものもあれば交流を直流に変換する回路で使う場合もあり用途は1つではありません。ただ、基本的に知っておく必要があるのは一方向にしか電流を流さないということだけかなと思います。

 

種類

整流用ダイオード

P_20170611_141340

ごくごく普通のダイオードです。電子回路レベルから整流回路そして半導体スイッチなどの逆電圧保護など多くの個所に使います。

 

ファストリカバリダイオード

整流ダイオードでは電流が流れていた時に逆向きに電流を流そうとすると、ごくわずかな時間は逆向きに電流が流れてしまいます。(この流れる時間を回復時間と言う)この現象を小さくしたのがファストリカバリダイオードです。基本的には比較的高速なスイッチングをする回路に使うかなと思います。

 

ショットキーバリアダイオード

ショットキー現象を用いたダイオードで順方向の電圧降下が少なくてファストリカバリダイオードの回復時間も短いが、逆電流を流そうとすると漏れ電流がほかのダイオードに比べて多く流れてしまうダイオード。他のダイオードよりは効率は良いですが設計上では注意しないといけないと思います。

 

定電圧ダイオード(ツェナーダイオード)

ダイオードの逆方向に一定以上の電圧を加えると逆向きに多くの電流が流れてしまう特性ツェナー降伏)を使ったダイオード。回路を一定以上の電圧にさせないクランピングを行いたいときに使う。パワー回路でサージ保護に使うこともある

 

パワー系の回路ではこの4種類が多く使われています。なお、整流用ダイオードを組み合わせてブリッジダイオードなどもあります

また、電子回路でよく使うダイオードも一部紹介しておきます。

 

定電流ダイオード

ダイオードにかかる電圧によらず一定の電流が流れるダイオード

 

発光ダイオード

P_20170611_144855

その名の通り光を出すためのダイオード。整流目的で使うのではなくあくまで発光素子として使うものである。

 

信号用ダイオード

 整流用ダイオードの小型版で小電流の信号を通すことを目的としている。

 

ダイオードの図記号と方向の読み方

ダイオードの図記号は整流用およびファストリカバリダイオードが左ショットキーバリアダイオードが中左定電圧ダイオードが中右発光ダイオードが右です。他の種類については省略します。後者2つの角度とかは図の作者によって多少の差はあります。

ダイオード図

 

ダイオードの用途

ここでは整流ダイオード(整流用、ファストリカバリ、ショットキーバリア)で組まれる回路についていくつか紹介します。他のダイオードはそれぞれ個別の役割があり、上で紹介した通りです。

整流回路

名前の通りの用途で、交流を直流に変換するための回路です。整流回路にはいろいろな種類がありますが、これについてはまた別の回で詳しく書きたいと思います。

昇圧回路

コンデンサと組み合わせてブートストラップ回路などを構成する部品として使われます。

半導体部品の保護

半導体部品には正規の方向以外の向きに電流を流そうとすると破壊されるものがあります。そのような半導体部品と逆向きにダイオードを入れることで逆電圧がかかるとダイオードに電流が流れて、部品を保護します。

 

ダイオードは単純に用途と言って説明しきれないくらいいろいろなところに使われます。ここで紹介したもの以外の回路でも一定方向しか電流を流さない特性を利用するときに使われるということを知っておいてください。

 

 


 

設計方法

電子回路レベルでのダイオードの設計方法は基本的にデータシートに書いている耐電圧耐電流を守れば問題ありません

しかし、パワー回路ではそれが通用しない場合があります。それは、ダイオードに電流が流れると発生する順方向電圧と流れる電流の積による電力損失で半導体の許容温度を超えるというものです。この現象自体は次回の半導体スイッチでも同じようなことが発生します。また、順方向の電流を突然逆方向に切り替えると一瞬だけ逆向きに電気が流れる(以後はリカバリ特性って書きます)ので、逆方向に流れる電流と発生電圧の積による損失も発生します。後者については基本的に周波数が低い回路では気にする必要はありませんが前者は周波数に関係なく考えないといけません。今回はその計算を簡単にしてみたいと思います。

順方向電圧と電流による発熱は一応以下の式で表すことができます。

ダイオード1

順方向電圧については電流によって変化するので厳密に求めたいならデータシートのグラフを参考にしてもらえればよいですが、データシートには最大電流での順方向電圧が書いてあることが多いで基本的にはそれで計算すればよいです。(安全側に働く設計となる)そして、ここで発生した熱は、基本的には空気中に逃げるわけです。空気に逃げる熱量を数値的に示したのが熱抵抗というパラメータです。式の内容としては1Wの放熱をするために半導体と外気温に何度の温度差が必要かというのを表したもので単位は[/W]です。外気温や半導体の耐える温度を以下のように置いて式を立てます。

ダイオード2

単位から考えると簡単だと思います。そしてこの式と先ほどの発熱量の式を組み合わせると

ダイオード3

となり、変形すると

ダイオード4

となり、データシートのパラメータと外気温から損失込みの許容電流を求められます

外気温は夏を考慮して基本的には35から40℃程度で計算します。また、熱抵抗についてはダイオードに放熱板を取り付けない状態での熱抵抗(放熱先が空気)のほかに放熱板を付けた場合に使うダイオード内部とダイオードのケースの熱抵抗などが書かれています。(書かれていないのも結構ありますが…)

例を示してみます。整流用によく使われている1N4007だと順方向電圧が1.1V 空気に対する熱抵抗が110/W で耐熱温度が150℃ 外気温を35℃とすると

ダイオード5

となります。このように小容量の素子でばデータシートに書いてある通りの電流をほぼ流せます。しかし、同じ計算方法でA電流が流れるダイオードの計算をすると放熱板をつけないとデータシートに書かれている最大電流が全然流せない場合もあるので注意が必要です。

次に、リカバリ特性ですが、計算に必要なパラメータがファストリカバリダイオードでない限り書いていないことが多いので計算は省略します。

回路編 第3回 コンデンサ・コイル

VVVFの作り方の第三回はコンデンサとコイルについてです。

コンデンサとコイルについては本格的な話をするとあまりにも難しいので比較的簡単なところだけかいつまんで解説したいと思います。VVVFを作る上で必要になるであろうことを選んで紹介するつもりです。

 

コンデンサもコイルもどちらもエネルギーをためる性質をもった素子です。しかし、交流の話になると抵抗的な動作をするという少しややこしい特性を持っています。なお、コイルは回路の世界ではインダクタと呼ばれることの方が多いの以後はインダクタと記載します。(コンデンサはキャパシタともいうけど、コンデンサっていう方がしっくりきます)

 

コンデンサの種類

セラミックコンデンサ

P_20170611_223444

電子回路においてノイズの除去や、水晶の発振、周波数フィルタなどに多くの個所・目的に用いられることが多いコンデンサ。容量は小さいが高周波における特性が良い


 

積層セラミックコンデンサ

P_20170611_223426

セラッミックコンデンサを積層させることで容量を増加させたコンデンサ。セラミックコンデンサと同じく周波数特性が良いので高周波のノイズ除去などに使われることが多い。また、電力が微小な箇所ではエネルギーをため込む用途で使う場合もある。

 

電解コンデンサ

P_20170611_144117

上の2種類のコンデンサに比べて大容量であることが特徴である。主に電圧変動(周波数が低いが大きな振れ幅を持つノイズと考えてもよい)を抑えるときや、ある程度の大きさのエネルギーをため込むときに用いられる。周波数特性が悪いため高周波ノイズを取り除くことはできない。(容量が必要かつノイズ対策が必要な場合、電解コンデンサに並列に積層セラミックコンデンサを挿入する)また、極性を持っているので注意が必要である。

 

ソリッドコンデンサ

P_20170613_000930

電解コンデンサと同じような用途で用いられる。(電解コンデンサの一種ともいえる)電解コンデンサは内部に液体を持っているがソリッドコンデンサは個体のみで構成されているため液漏れの心配がない。そのため寿命が長いのでパソコンのマザーボードなど信頼性が要求される場所に多く使われている。あくまで電解コンデンサの一種であるので極性は持っている

 

基本的にデジタル系やパワー系の電子回路では主にこの4つのコンデンサが使われることが多いです。他にはフィルムコンデンサ(主にオーディオなどのアナログ回路)とか電気二重層コンデンサ(電力をためる用)とかタンタルコンデンサ(電解コンデンサの一種で高周波特性が少し改善されている)とか可変コンデンサ(ラジオの周波数切り替えで使うやつ)とかあります。 アナログ回路ならコンデンサもいろいろ大事ですが、デジタル回路では、ことが足りることが多いです。

 

インダクタの種類

コイルはインダクタとも呼ばれますが、種類と言っても巻き方とか巻き線の太さとか中のコアの差ぐらいしかないので省略します。

 

コンデンサ・インダクタの容量の読み方

基本的に電解コンデンサなど大型のコンデンサは直接容量・耐圧が書かれていますが、セラミックコンデンサや積層セラミックコンデンサなど小型のコンデンサは3桁の数字で書かれているものが多いです。ここではその3桁の数字(一部容量は2)の読み方を紹介します。なお、チップのコンデンサなど何も書かれていないコンデンサはどう頑張っても読めないので、テスターなどで測定してください。

2桁表記のセラミックコンデンサは2けたの数字そのものが容量で単位は[pF]となっております。

3桁書かれているタイプのセラミックコンデンサは抵抗器と同じ読み方をします。上の2桁が値で下の1桁が桁となっています。(誤差はなし)

 

セラミックコンデンサの読み方の例

コンデンサ

左の場合は22[pF]とそのままです。右の場合は10×10^4 [pF] = 0.1[μF]となります。

インダクタについては、きちんと容量を書いているタイプもありますが書いていないタイプもあります。書いているタイプはたいてい容量がそのまま書かれていて単位は[μH]です。

 

コンデンサ・インダクタの図記号

 図記号コンデンサ


左から電解コンデンサ以外のコンデンサ、電解コンデンサ、インダクタの順番です。なお、可変コンデンサの場合は記号中に「矢印」追加されます、

 

コンデンサ・インダクタの用途

コンデンサ

・整流回路における電圧安定化

・高周波ノイズの除去(ハイパスフィルター)

・エネルギー貯蔵

・ローパスフィルター

 

インダクタ

・高周波ノイズの除去

・エネルギー貯蔵

・ハイパスフィルター

 

簡単に用途を出すとこのような感じになります。なお、コンデンサとインダクタで同じ用途で使われているものがありますが回路への接続方法が全く違うので注意が必要です。

コンデンサはノイズの除去やエネルギー貯蔵をする際には信号や電源ラインとGNDの間(並列)に挿入しますが、インダクタの場合は信号や電源ラインに割り込む形(つまり直列)に接続します。一般に電子回路ではコンデンサでノイズ除去を行うことが多いです。エネルギーを蓄える用途は回路によってどちらを使うかが変わってきます。

 

コンデンサ・インダクタの動作

コンデンサやインダクタはエネルギーをため込む素子です。エネルギーをため込むということで、電気を流し始めた時とずっと流しているときでは流れる電流や素子にかかる電圧などが全然違います。コンデンサやインダクタが関連する回路の周辺回路の設計では初期状態と時間がたった状態(一般に定常状態という)の両方の状態を考慮して計算しなければなりません。

まずは単体のコンデンサにある電圧を印加した時にコンデンサに流れる電流を表したグラフです。


コンデンサ過渡1

電源が無限大の電流を流すことが可能だとこのような感じのグラフになってしまいます。コンデンサは電圧をかけた瞬間理論上は無限大の電流を流してしまうのです。そして、無限大の電流が流れた瞬間のあとには電流は0になってしまいます。言い換えると電源を入れた瞬間にコンデンサに蓄えることのできるエネルギ(電荷)を限界まで蓄えてしまいこれ以上入らない状態になります。エネルギーがこれ以上入らない状態だと電流はもう流すことはできないということです。

つまり、コンデンサを含む回路の設計をするときはコンデンサの抵抗が0であった場合と無限大であった場合の両方を考える必要があるというわけです。ただ、無限大の電流が流れるというのはあくまで理論上の話で実際には電源のインピーダンスとか配線の抵抗で流れる電流の制限がかかってしまいます。ですので、何回もON/OFFを繰り返すような回路でなく、コンデンサの容量が小さい場合や電源インピーダンスがある程度ある場合などでは抵抗が0の場合を考えずに設計をする場合もあります。

電源の内部インピーダンスを考慮した場合や電流制限抵抗を取り付けた場合のコンデンサに加わる電流電圧の関係のグラフを載せておきます。

コンデンサ過渡2
コンデンサ過渡3

実用的な回路では大体このような感じの電流電圧波形となります。感覚としてはスマホの充電で考えるとよいかもしれません。0%から60%くらいまでは結構な速度で充電されて(電圧上昇が速い)本体やアダプタも熱くなる(多くの電流が流れる)けど100%に近いところではなかなか充電が進まず本体やアダプタも熱くならないというのとほぼ同じです。

 

次にインダクタの場合を考えます。コンデンサでは電圧を印加した時に流れる電流を考えましたが、インダクタでは電流を流した時に発生する電圧で考えます。回路に挿入するときに直列接続するためです。

電流を流し始めた時に加わる電圧のグラフはこのようになります。

インダクタ過渡1

コンデンサに電圧をかけた時に流れる電流の波形と形が全く同じです。電流を流し始めた瞬間にインダクタに磁気エネルギーが完全にたまりそのあとはエネルギーが入らない、つまり電圧が発生しないということです。要するに、電流を流し始めた瞬間は抵抗が無限大でそのあとは抵抗が0になるというわけです。

続いて、実用的な回路でのグラフです

インダクタ過渡2
インダクタ過渡3

実用的な回路では入力を電圧としています。なお、インダクタ単体に電圧を加えると、一瞬でショート状態となり電流は無限大になって回路が破損しますので禁止事項になります。

 

コンデンサ・インダクタの原理

なぜ、コンデンサやインダクタを使った回路がノイズ除去とか電圧安定化とかローパス・ハイパスフィルターの動作をするのかってことを説明したいと思います。

ノイズとか電圧変動を単独で見ると直流ではなく交流とみることができます。今回はこれがミソとなります。

交流回路におけるコンデンサとインダクタのインピーダンスは

f:交流の周波数

C:コンデンサの容量

L:インダクタの容量

として

印ピーンダンス式

と定義されます。Zcがコンデンサのインピーダンス、Zlがインダクタのインピーダンスです。今回説明するのは一般的にノイズ除去に使われるコンデンサのみとします。

定義式よりコンデンサは周波数が高いとインピーダンスが低くなることがわかります。つまりコンデンサは周波数の高い成分ほど通しやすいということです。ここでノイズと電圧変動を簡単に表したグラフを見てみましょう。


成分

このグラフでオレンジで囲った部分を大まかにみると周波数の低い交流のように見えます。今回はこれを電圧変動と言います。それに対して青で囲った部分は細かな振動をしており、周波数の高い交流とみることができます。これを今回はノイズとおきます。

ここで定義式を見てみましょう。周波数の高い成分は小さな容量のコンデンサでも通してしまいます。つまり信号線や電源線とGNDの間に容量の小さいコンデンサを入れれば、周波数の高い交流成分はGNDに流れてしまいますこれによってノイズが消えると言えます。次に周波数の低い成分である電圧変動を流すには定義式より大きな容量のコンデンサを入れればよいです。つまり、容量の大きなコンデンサを電源線とGNDの間に入れれば電圧変動をGNDに流され電圧は安定するということです。

 

ハイパスフィルターやローパスフィルターも同様の数式で計算します高周波成分のみを通過させて出力先に流すのがローパスフィルター、高周波成分のみをGNDに流して出力先には低周波成分のみを流すのがローパスフィルターということです。


回路編 第2回 抵抗器

電子部品の細かな話の第1回目は抵抗器です。

抵抗器というと内部に電気抵抗を持っているだけの電子部品ですが、使い方は本当にいろいろあります。使い方によって同じ部品で済む場合もあれば、違う部品を使う場合もあります。

 

抵抗器の種類

カーボン抵抗

P_20170611_000147

一般的に電子回路で使う抵抗と言えばこのカーボン抵抗です。炭素を抵抗体とした抵抗器で安くてそこそこの精度を持った抵抗器です。

 

金属皮膜抵抗

カーボン抵抗では要求される精度を満たせないくらい精密な抵抗値が必要な場合に使う抵抗器です。カーボン抵抗よりは価格がちょっと高いかなと。

 

酸化金属皮膜抵抗

カーボン抵抗では電力が足りないときに使う抵抗。小型で比較的大きな電力を扱えるというのが特徴です。

 

チップ抵抗

細かな場所に回路を押し込みたい時などに使う抵抗器。基板の表面に実装できるのでコンパクトになりますが、はんだ付けがしにくいので趣味で使う分にはあまり使わないかなあと。抵抗体は金属皮膜抵抗と同じはずです。

セメント抵抗

 酸化金属皮膜抵抗をセメントで固めたもの。放熱性が高くなるので、大電力を扱えます。

 

電子回路で使う抵抗値固定の抵抗器は大体この5種類あれば十分かなと思います。

 

他には巻線抵抗器や大電力に耐えるホウロウ抵抗器とかメタルクラッド抵抗器とかありますがパワーのある回路を除き、電子回路レベルで使うことはあまりないです。

 

抵抗値固定でない抵抗器

可変抵抗

P_20170611_195206

つまみを回すことで抵抗値を変えることができる部品。基本的には3ピンの部品両端の2ピン間は可変抵抗記載の抵抗値で固定されており、中央のピンと両端のどちらかのピンの間の抵抗値が0から可変抵抗に記載の抵抗値の間で変わります。両端を電源とGNDにつなぐと分圧の原理で回転角度のセンサとして使えます抵抗値の変わり方には複数の種類がありAカーブ、Bカーブ、Cカーブって呼ばれています。基本的には線形的に抵抗値が変わるBカーブが使われます。Aカーブはオーディオのボリュームに使われますが、Cカーブはあまり使われないと思います。

 

半固定抵抗

P_20170611_200100

可変抵抗のつまみがないバージョンでドライバーなどを使って回すことで抵抗値を変更します。調整は必要なものの、値を変更することが少ない箇所に使います。カーブはBカーブのみです。

 

抵抗値の読み方

抵抗器は大型ものやチップ型のものでは数字で抵抗値が書いていますがたいていの抵抗器は色で抵抗値が示されています。その色の意味と抵抗値の読み方を説明します。

まずは抵抗器の色の意味を下の表でご覧ください。

抵抗値

初めにこの表で色を数字に変換します。

続いて出て来た数字を抵抗値に変換するのですがそれぞれの桁に意味があるので下の図をご覧ください。

抵抗

この図では3.3kΩの抵抗器の意味を示しています。読み方は図の左から10の位 1の位 桁数 精度となっており、桁数と精度の間は他のラインの間隔よりも広くなっています。

これより10の位と1の位を合わせて33 桁は10^2 精度は±5と読めます。これを合わせると 33×10^2 = 3300 = 3.3kΩ ±5%と読めますね。

 

回路図の図記号

下の図の通りですが左のギザギザの方が古い書き方で右の四角の方が新しい書き方です。JISの観点からいうと、右の四角の表記の方がいいのですが、昔からの名残で左のギザギザを使うこともよくあります。

抵抗図

 

抵抗器の用途

電流制限

LEDFETIGBTのゲートなどに流れる電流を制限して、LEDの過電流による破損防止や、FETIGBTのスイッチング速度調整を目的として取り付ける。

分圧

マイコンの入力モード時などの入力インピーダンスが高い電子部品に電源とグランドの間の任意の電圧を印加したい場合に使用します。回路構成は電源とグランドの間に2本以上の抵抗器を入れたものとなっています。それらの抵抗値の値により分圧により出力される電圧が変わります。詳細は後半の設計の章で紹介します。

ヒーター

抵抗器に電流を流すことで電力を消費させ、その発熱を利用したものです。おもにストーブなどの熱を取り出すことを目的とした使い方。

電力消費

基本的にヒーターと同じであるが、熱を目的とするのではなく、回路内で発生した電力を熱に変換して消費させるのが目的。電車では発電ブレーキや抑速ブレーキで発電した電力を消費する際に使用される。

プルアップ・プルダウン抵抗

スイッチのみをマイコン入力に接続すると正しくスイッチの状態を読み込めない問題を解決するために使用される。詳細は後半で紹介します。

 

各用途での設計法

抵抗器のパラメータ設計では基本的にはオームの法則と電力の計算式さえ知っていればなんでも計算ができます。

オームの法則

V:電圧[V]

I:電流[A]

R:抵抗[Ω]

として

V=IR

 

電力の計算式

P:電力[W]

I:電流[A]

V:電圧[V]

として

P=IV


 

電流制限の設計法

オームの法則をそのまま使って計算を行いますが注意点があります。それは計算で使用する電圧のパラメータが「抵抗器に加わる電圧」であることです。

以下のように計算を行います。

Vr:抵抗器に加わる電圧[V]

I:電流[A]

R:抵抗[Ω]

として

Vr=IR

この式を抵抗値基準にすると以下のようになります。
キャプチャ

例としてLEDに流れる電流制限の計算をしてみます。

LED適正電流If10[mA] 順方向電圧Vf1.0[V] 電源電圧V5.0[V]とした場合のLEDの電流制限抵抗の計算をしてみます。

式2-1

抵抗値は抵抗器に加わる電圧を基準に計算するので、電源電圧からLEDの順方向電圧を引いたものを電流で割った式になります。この式で計算をするとLEDの電流制限抵抗の値は400[Ω]となりました。しかし、計算で出た値の抵抗値がそのまま販売されているとは限りません。というか基本的にはないことが多いです。そのため計算した値より大きい側で販売されている抵抗値を使用します。秋月のサイトで400Ω以上の抵抗値で最も低い抵抗値を探すと470Ωがあるので今回の場合この470Ωを使用すればよいです。

 

これで、抵抗値が決定されましたが、もう一つ計算しなければならない個所があります。それは抵抗器での損失による消費電力です。電子回路の小信号部ではほとんど考慮する必要はありませんが比較的大きな電力を抵抗器で消費する場合この計算が必要です

例えば、抵抗器にかかる電圧が20[V] 電流が0.1[A]だった場合抵抗器での消費電力

P = 20[V]×0.1[A]=2[W]

となります。したがってこの場合抵抗器の許容電力が2[W]以上のものを使わなければなりません。

しかし、先ほどのLEDの電流制限のような低消費電力の回路の場合4.0[V] 10[mA]が抵抗器で消費されており、電力を計算すると 0.04[W]となることがわかります。この場合は一般的に販売されている1/4[W]の抵抗器を安心して使うことができます。

 

分圧

分圧の設計もオーム法則をそのまま使用できます。

分圧回路の回路図は下の図のような回路です。

分圧

ここで、VccからGND間に流れる電流Iオームの法則により

I= Vcc/(R1+R2)

となります。

次にVoutの電圧を電流Iを用いて表す

Vout = I×R2

となり

式2-2

となりR1R2の抵抗値の比率により出力電圧を変化させることが可能です

例えば、電源電圧5V4Vを出力したい時はR11kΩとして

式2-3

と計算することができます。

この原理を応用すると可変抵抗を使った角度センサーが作れます。

 

ヒーター、電力消費の設計法

電力を抵抗器で消費させる場合は以下の式で計算できます。

P=I^2×R=(V^2)/R

 

例えば100[V]1000[W]のヒーターを設計したい場合は

式2-4

となります。

 

プルアップ・プルダウン抵抗の設計法

考え方としては分圧の考えの応用です。

下の図の左がプルダウン、右がプルアップです。

プルアップ

説明はプルダウン抵抗の方で説明を行います。

プルダウン抵抗の方で説明を行います。

SWが開いているとき、スイッチが押されていないとき(A接点の場合)SWの抵抗値を無限大と考えます。

これを分圧の式で計算すると

Vout = Vcc×(R/+R) 0[V]

となります。

これより、スイッチが開いているときは0[V]が出力されることがわかります。

逆にスイッチが閉じている、つまり押されている(A接点の場合)ときは、SW0[Ω]と考えることができます。

Vout= Vcc×(R/R+0)=Vcc

よって、スイッチが閉じているときは電源の電圧がそのまま出力されることがわかりますね。

プルアップの場合はVccGNDが入れ替わってるだけで、同じように考えればスイッチが開いているときにVccが出力され閉じているときは0[V]が出力されることが明らかですね。

最後に、Rの抵抗値ですが基本的には1~10[kΩ]程度の抵抗値を使うのが一般的です。それ以下だと電流が流れすぎてエネルギーの無駄使い、大きいとハイインピーダンスとなり正しく動作しない可能性があります

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