ファンに続いて次はBLDCモータを演奏してみました。

BLDCモータは名前の通り整流子(ブラシ)のないモータでモータ自体は3相の同期電動機の一種です。ですので、制御を工夫すれば割といろいろなことができるのです。今回は作品を作るにあたって試した制御方法(主にパルスモード)のお話をしたいと思います。

 

まず初めにBLDCモータの駆動原理を紹介します。BLDCは普通のブラシモータやファンみたいにモータの端子に電圧をかけるだけでは全く駆動しないばかりか、過大な電流が流れて場合により電源回路やモータなどが破損します。BLDCではブラシの代わりに制御回路でモータを回転させるパルスを作り出す必要があるのです。

 

まずはモータの駆動方法を紹介します。

BLDCモータは下図のような構造です。

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モータの回転軸には永久磁石、固定部に電磁石(コイル)が配置されています。回転部に電流が流れないのでブラシが不要になるというわけです。そして、固定部(この図では外周部)の電磁石にUVWの順に回転するように電流を流すと、回転軸(この図では内部)の磁石が電磁石に引き寄せられる(反発する)ようにして回転を始めます

具体的にはモータの各端子に以下のように電圧を印可させるとBLDCモータは回転を始めます。
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印可されてる電圧は矩形波の三相交流です。BLDCモータは三相の同期電動機と同じ構造のためこのような波形で駆動するというわけです。ここでは、図の時間方向の1マス分を1単位として扱います。

BLDCモータは回転子の角度に応じて固定子の電磁石を制御しなければなりません。その制御の方法には大きく2つあり、1つは固定子の角度を読み取れるホールセンサが内蔵されたもの、もう1つはセンサが無くHIGH-Z状態端子に現れる電圧を監視し現在角度を読み取るものがあります。前者のモータの場合はセンサを制御マイコンに接続するだけ(プルアップ処理は要りますが)ですが、後者の場合周辺回路をいくつか組み込む必要があります。

なんですが今回はBLDCでアクチュエータを動かすわけではなく音を奏でるのが目的です。演奏するには音階の周波数に合わせて電圧波形を生成するので回転角度を読み取ってもほとんど意味がありません。回転角度を読み取る制御にはコストがかかるのに加えて回転速度が音階に合わなくなる可能性もありメリットはほとんどありません。(脱調しないのはメリットですが…)そのため、今回は回転角度の読み取りは行いません

 

次に演奏時のパルスモードです。BLDCを演奏する方法はファンや自作VVVFのようなモータの励磁音を利用する方式と、ステッピングモータのようなモータの回転音を利用する方式の2種類が考えられます。

まずは励磁音を利用するやり方です。励磁音を利用する場合でも回転速度を音階に関係ない速度にすると回転音がノイズとなってしまいます。そのため、回転速度と演奏PWMの速度を同期させたパルスを送る必要があります。パルス数は異なりますが自作VVVFの同期PWMと似たやり方です。実際の波形はこんな感じです。

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この図の場合は1単位当たり2パルスでの駆動です。なお、出力される音は1秒間当たりのパルス数の音1単位当たり2パルスの場合は回転数の12倍の周波数の音となります。

しかし、この方式の場合多くの音楽で使われる周波数帯域ではPWMの周波数が低いためモータが電流連続モードにならず過電流が流れてしまい、実運用ではとても使えるものではありませんでした…そのため、回転音を利用する方式へと方向転換しました

 

というわけで次は回転音を利用して演奏する方式です。

このモードではPWM周波数は高く設定し回転パルスとPWMを同期させません。自作VVVFでいうところの非同期モードに似たパルスモードです。この方式の場合はPWM周波数をモータが電流連続モードとなる10kHz以上にできるので過電流が流れにくくなります。

このモードではパルスの印可方法が2種類あります。本質的に大きく変わるものではありませんが…

1つめが非相補PWMモードです。

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ローサイド側にはPWMを印可しません。また、ハイサイド側はPWMOFFの時の出力はHIGH-Zになっています。

2つ目が相補PWMモードです。

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こちらもローサイド側はPWMを印可しませんが、ハイサイド側のPWMOFFの時はLレベルに落とします。

この2つの使い分けはMOSFETのゲート駆動電源の都合になると思います。ブートスタラップ方式で非相補PWMにすると1/3回転分(2単位分)の時間のゲート駆動に必要な電力ブートストラップコンデンサに貯めておく必要があるため、非常に大容量なブートストラップコンデンサが必要となり現実的ではありません。それに対して相補PWMモードにした場合はPWM1パルスごとに充電できるため1パルス分に必要な電力をブートストラップコンデンサに貯めこめばよいため一般的なモータドライバと同じ小容量のコンデンサで済みます。そのため、今回は相補PWMを使い回転速度で音楽を演奏するシステムにしました。

 なお、このパルスモードでは再生される周波数の音は実験を行ったところ回転速度の6(回転パルス数, 1秒間当たりの単位数)の倍の音が再生されました。

 パルスモードのお話は以上です。続きは後編です。