ゲートドライバICの使い方を記事を新たに書き直しました。
→http://vvvf.blog.jp/archives/6572197.html
こちらの方が図が多くわかりやすいかなと思います。
ゲートドライバICの機能
ゲートドライバICは名前の通りMOSFTやIGBTのゲートを駆動するためのICです。内部の出力部には前回紹介したトーテムポール回路が内蔵されているほか、デッドタイムの自動挿入機能(一部非対応のものあり)やゲート駆動電圧の生成機能です。つまり、このICがあれば1つのゲート駆動電源ですべてのスイッチのゲート駆動ができてなおかつ高価なトーテンポール回路を内蔵したフォトカプラも不要というわけです。
ブートストラップ昇圧の仕組み
ゲート駆動の昇圧機能の仕組みと注意点の紹介をします。ゲートドライバICに内蔵されている昇圧機能は、ブートストラップと呼ばれるチャージポンプの一種です。
原理は、コンデンサに電荷を貯めてそのコンデンサに貯めた電荷を電源と直列に繋ぎ変えることで電圧を上げます。ゲートドライバICの場合はMOSFETがオフの時にコンデンサに電荷を貯め(充電)て、ONの時には充電されたコンデンサをゲートソース間に接続し、ゲート駆動電源にします。
これにより、1つのゲート駆動電源ですべての半導体スイッチを駆動できます。しかし、この原理上1つ問題があります、それはコンデンサに充電する時間を設けないとゲート駆動ができないということです。つまり、ハイサイドのMOSFETをずっとONにしているとコンデンサへ充電することができないので、ある程度の周期でハイサイド側をOFF・ローサイド側をONにする必要があります。(MOSFETやIGBTのゲートは絶縁されているのでONになったあとは電流が流れないように思えますが、実際には半導体スイッチやゲートドライバ等の漏れ電流で多少の電流が流れます)つまり、特殊な回路を組まない限り常時ONが必要な回路では使用できないというわけです。
この点を理解したうえで回路設計を行う必要があります。
ゲートドライバICの選定方法
メインとなるゲートドライバICにもいろいろな種類があります。ハイサイド側・ローサイド側両方のスイッチを駆動できる製品のほか、昇圧機能を持たずローサイド側のみを駆動できる製品もあります。また、ハイサイド側・ローサイド側を独立してして駆動できる製品もあれば、入力信号のHLでハイサイド側・ローサイド側のON/OFFが切り替わる製品もあります。ですので用途に応じて選ぶ必要があります。
今回はハイサイド・ローサイド両対応でそれぞれ独立して駆動できるIR2110を使用します。なお、この製品にはハイサイド・ローサイド切り替え時のデッドタイムの挿入機能はありません.
データシートのURL:
https://www.infineon.com/dgdl/ir2110.pdf?fileId=5546d462533600a4015355c80333167e
英語ですが何とか読み解くことができるとは思います。
周辺回路の部品の選定
何もない状態では、周辺回路に何が必要かというのもわかりにくいのでデータシートに必要な回路図をデータシートから引用します。
ゲートドライバICの周辺回路はこの回路図のように組む必要があります。
入力側(左側)のコンデンサはIC周辺に良く取り付けるパスコンですので、0.1μFから1μF程度のものを取り付けます。
右下のコンデンサは次にIRの資料を読み解くと次に紹介するブートストラップコンデンサの10倍の容量のコンデンサを取り付ける必要があると書かれています。ただし、パスコンとして扱って0.1~1μF程度のコンデンサを取り付けても、安定性や特性を除くと回路としての動作は確保できます。
右上のコンデンサはブートストラップコンデンサです。ハイサイド側MOSFETのゲート駆動に使う電力はこのコンデンサにため込みます。そのため、計算を行ったうえで容量を出す必要があります。
ブートストラップコンデンサの容量計算
ブートストラップコンデンサの計算方法はゲートドライバICを製造しているIR社から分かりやすい資料が出ているのでこれをもとに計算します。
まずはURLを
この資料のpage2 の式1にこのコンデンサの最小電荷の計算式が書かれています。
この式でコンデンサの最小電荷量が求まります。ここで注意が必要なのがハイサイドスイッチのゲート電荷量です。これはゲート容量と異なるので注意が必要です。ゲート容量は単位が[pF]などのファラッドですが、ゲート電荷量は単位が[nC]などのクーロンとなります。データシートを読むとMOSFETの場合は大体データシートにゲート容量と合わせてゲート電荷量が書かれていますが、IGBTの場合書かれていない場合が多いです。この場合はゲート容量からQ=CVの式で算出できますが、MOSFETのデータシートを読むとゲート電荷量の方が倍程度大きい場合がありますので今回はQ=CVの式を2倍にした以下の式で近似を行います。
これにてブートストラップコンデンサの必要な電荷量が求まりました。これを必要な要領に変換しますが、資料にも書かれている通り電荷が完全に0になるとゲートをONにできなくなるなどの不具合が発生するため、ここで計算した容量の最低2倍以上の容量が必要となります。このことを考慮したうえの式がpage3の式2です。ここでは上で計算した値を用いた計算式を紹介します。
この式で最低限のコンデンサの容量が求まりますが、資料に書いてある通り容量の小さいコンデンサを使用すると過充電などが発生しゲートドライバICにダメージを与える場合があるので、大体15倍程度した容量以上のコンデンサを取り付けるとよいでしょう。
また、各パラメータは最悪の状態(周波数だとVVVFの場合非同期のPWM最低周波数or同期モードでの波形の最低周波数、その他のパラメータはデータシートにおける最悪値)で計算を行います。また、電解コンデンサを取り付ける場合は並列にパスコンを入れる必要があります。
ブートストラップダイオードの選定
重要な項目としては先ほどの資料に書かれている通りです。
・逆耐圧Vrrmが主回路の電圧以上であること
・最大逆回復時間が 100ns以下であること
・順方向電流IがQbs(ゲート電荷量)×fmax(最大動作周波数)以下であること
を満たしているなら問題ありません。基本的に特性の良いファストリカバリダイオードを使うと良いでしょう。
ゲートドライバICの内部構造
ゲートドライバICの内部の回路は以下の回路で構成されています。データシートから引用しています。
左側の入力端子からプルダウン抵抗、シュミットトリガNOT回路、論理回路(RSFFと3入力NOR)、レベルシフタ回路とありハイサイド側はさらにレベルシフタ回路やフィルタ回路等を挟みトーテムポール出力、ローサイド側は遅延回路等を挟みトーテンポール出力となっています。ちなみにシュミットトリガ回路というのは入力のHLの閾値を超えた時のみにHLが切り替わる回路で入力が高速に切り替わることなどを防いでくれます。RSFFは入力信号の保持を行っています。ここではあくまで紹介ですので、詳しくは各回路の名前で検索してください。